第14弾は、福岡と東京のデュアルライフを送りながら、酒販会社、飲食店、酒碗ギャラリーなど、さまざまな事業を手がけている庄島智子(@とも)さんにお話をお伺いしました。
30歳から未経験の飲食の世界に飛び込み、いかにして繁盛店を作り、複数の事業を展開するまでに至ったのか。根底に流れる人生観、仕事観に迫りました。
『食堂セゾンドール』マネージャー 庄島 智子さん
福岡 ⇄ 東京のデュアルライフで複数の事業を展開
― まずはじめに、智子さんの現在のお仕事について教えていただけますでしょうか。
現在は、主人が『住吉酒販』という酒販会社を経営しており、主に「住吉酒販」がオーナーを務める『食堂セゾンドール』というフレンチレストランのマネージャーをしております。
また、日本酒と合わせて、日本酒を五感で味わう為の酒器「酒碗」をプロデュースする『天酒堂』のサポートをしています。
■住吉酒販(住吉酒販 – 酒に笑う人生)
■ 食堂セゾンドール(食堂セゾンドール)
■天酒堂
また、西麻布でワインと日本酒のバー『酉卯』も展開しており、こちらのフォローもしております。そのため、ベースは福岡ですが、月の4分の1は東京にいるイメージです。
■酉卯(酉卯 )
「ありがとう」の言葉を言いたくて、30歳で未経験の飲食の世界に飛び込む。
―30歳までは別のお仕事をしていて、未経験の状態で飲食の世界に飛び込んだと思うのですが、どのような想いやキッカケで飲食の世界に進んだのでしょうか。
キャリアとしては、地元の大学を卒業後、病院の薬局で医療事務として働いていました。その時、毎日使っていた言葉が「お大事になさいませ」だったんです。当時から飲食店を巡ることが好きで、その中で飲食業界の方とも仲良くなるようになって、「ありがとう」を言える仕事に就きたいなと思って、飲食の世界に飛び込みました。
―未経験ということもあり、さまざまな苦労もあったのではないでしょうか。
何もできない日々が続いて、何もできなくて怒られまくって、キャリアを変えてからはじめの半年ぐらいは記憶がないですね。(笑)でもある時に、上司の仕事を私が全部できるようになれば上に上がれるのかなと頭を切り替えて、とにかく上司の仕事を全部取ろうと思ってがむしゃらに仕事に励みました。
例えば仕込みは、上司が来る前にすべて終わらす。休みの日は、仕事が深夜1時に終わって、2時間だけ仮眠を取って、魚を覚えるために市場に行く。また別の日には、違うお店に入らせてもらうなど、学べるものはすべて吸収するつもりでとにかく行動をしていました。
未経験から2年で独立。オープンから2年で繁盛店に。
―飲食業にキャリアを移してから、早い段階で独立をされたんですね。
30歳で飲食の世界に入った時に、数年で独立しようと思っていました。働き始めて2年経った頃、働いていたお店が閉めることになり、そのお店を買い取る形で独立をすることになりました。
当時は、「広い居酒屋」×「日本酒と魚」×「女性オーナー」という組み合わせが珍しかったようです。オープンして2年目に住吉酒販と出会い、日本酒をより充実させていっている過程で、毎日2回転予約満席というような状況になっていました。
―すごいですね。ちなみに、今はそのお店はどうされているのでしょうか?
繁盛していたのはありがたかったのですが、自分自身が全てのお客様に充分な接客ができないという現実が少し苦しくなり、1回仕切り直したくて6年目で閉店しました。周りの飲食店オーナー達からはとても不思議がられましたが(笑)。
酒と飯さぬいろ。最後のイベントが終わった集合写真。
まずは飛び込む。飛び込んだらやり抜く。
―初めての店舗を閉店した後は、お店を再開するのではなく、違う方向に舵を切ったのですか。
本当は、年齢を重ねていたこともあり、もう少しコンパクトなお店を開店しようと思っていました。しかし、ちょうどその時、住吉酒販から、当時佐賀県呼子にあった『セゾンドール』を福岡に招聘するので一緒に立ち上げないかという話がありました。私自身、ワインも勉強したいなと思っていましたので、『セゾンドール』に入る話を受けました。呼子のセゾンドールは福岡から車で2時間以上かかる立地にも関わらず、シェフの料理を求めて各地から料理人を始め様々なお客様が集っていました。
―『セゾンドール』では、マネージャー兼ソムリエとしてすぐに入ったんですか。
入店時にはソムリエの資格は持っていないどころか、ワインの知識も全く無い中思い切って飛び込みました。これまでは、日本酒を主にやってきたので、日本酒をフレンチレストランで出していたのですが、お客様から「ワインがわからないから日本酒を勧めるんでしょ」というご指摘を受けて、これはもう取らないとまずいなと思って、3か月でソムリエの資格を取りました。
仕事の哲学「見て見ぬふりをしない」
―智子さんのお話を聞いていると、何事もまずは飛び込んでみて、リアルな体験を通して仕事を進められ、さまざまな事業を展開されているように思います。そのスタイルで今のご自身があると思うのですが、仕事において大切にしている価値観は何かありますか?
ひとつ挙げるとすれば、「見て見ぬふりしない」ことですかね。何事も見て見ぬふりをしなければ、相手の気持ちもわかるし、スタッフ間だけでなくお客様の気持ちもわかるようになると思います。「もしかして、相手はこうしてもらいたいのかな」を考え続けることは、サービスにもなると思っています。ですのでスタッフ達にも言い続けています。
―それは飲食の世界に入ってから強く意識するようになりましたか。
おそらく、飲食の世界に入ってからだと思います。飲食店では、1回の食事に2時間ほどの時間をかけることも多く、お客様と接する時間が長い業種だと思っています。この長い時間をともに過ごすなかで、お客様の表情や仕草から気づいたささいなことを、慌ただしい中でも見て見ぬふりをしないことを最も大切にしています。
心をオープンにすると、出逢いが広がる、深まる。
―その他に大切にしていることはありますか?
「出逢いに対して素直でいること」でしょうか。シェフの佐藤伸一さん、ワイン研究家の杉山明日香さん、日本酒蔵元の佐藤祐輔さんなど、現在業界を牽引されている方々と出会うことができたのは「出逢いに対して素直だったから」だと思います。
たとえば、主人に「佐藤伸一さんとご飯に行く」と伝えると、いつも驚かれます。確かに、誘うことに躊躇する気持ちもわかるのですが、私は「話を聞きたい」という思いの方が強いんですよね。
フランスで活躍される佐藤伸一シェフと。シェフの大好きなラムをレクチャーしていただきました。
ワイン研究家、杉山明日香さんとシャンパーニュ生産者「ペルネペルネ」を訪れました。
新政酒造佐藤祐輔さん、白糸酒造田中克典さんと鮨唐島さんで。
Naoさんが「IWA」をプロデュースするリシャール・ジョフロワさんを天酒堂にお連れくださいました。
東京とパリ2拠点で活躍されているMINOTAUR INST. 泉ご夫妻と。福岡出身なので、よく遊んで頂きます。
―憧れる方に自分からお声がけをすることは、気後れすることもあると思うのですが、何か気を付けていることはありますか。
私はしゃべることが得意ではないので、聞き役に回ります。あらかじめ自分が聞きたいことを、必ずいくつか用意して、質問をしてお話を聞くようにしています。それもレストラン業務に繋がっているようにも思います。お客様の話を聞くこともサービスの1つだと思うし、居心地良く過ごしていただけるように、お客様のそばで聞き役に回ってるような気がします。
福岡の飲食業界に貢献したい。
―少し趣向の違う質問をしたいと思います。今、智子さんが注目しているお店はありますか?
自分のお店で恐縮なのですが、『セゾンドール』でしょうか。なぜかというと、今65歳の前山シェフは、20代より古典的なフレンチからスタートされたのですが、年を追うごとに食材に向き合い、素材の良さを引き出すことを第一に考える料理スタイルと変化していきました。また、今でも素材への愛情と料理への執着は衰えをしらず、益々魅力的な料理を創造されています。
また、『セゾンドール』では前山シェフの素材感溢れる料理に合わせて、ワイン・日本酒の垣根の無いペアリングを大切にしています。シャンパーニュとお燗酒が共存しているような食とお酒の自由な世界をもっと多くの方に知って欲しいと思っています。
福岡の食文化について「福岡は美味しいお店が多い」とよく言われることがあるのですが、さらにもう一歩、全体の底上げに貢献出来たら良いなと考えています。『セゾンドール』では、積極的にスタディエを受け入れるようにしています。飲食店のジャンルを問わず、前山シェフが推奨する50度洗いや低温スチーム等の技術を取り入れると、よりクリアで美味しい味わいを表現できるのではないかなと思っています。
5年後、10年後をより豊かに生きるために学び続ける
―ここまで過去、現在のお話を聞いてきました。5年後、10年後で実現したいことなどのイメージはありますか。
今まではとにかくがむしゃらに行動してきました。これからは自分がやってきたこと、考えていることを咀嚼して若い世代や、これからの時代を担っていく人達に伝えていく役回りをしても良いかなと思っています。現時点では、まだ具体的な形にはなっていないのですが、とりあえず飛び込んでみるといった考え方の話から、技術的な部分も含めて、「育てる」フェーズに持っていきたいなと思っています。
―プライベートの5年後、10年後のイメージはありますでしょうか?もしくは、仕事とあまり境界線を引かずに考えていらっしゃいますか。
30代はとにかくがむしゃらにやってきて、40代の今、「趣味=習い事」とよく言われるくらいに習い事をしています。英会話、着付け、ゴルフなどを、時間のやりくりをして取り組んでいます。50代、60代をより豊かに生きるために、40代は学びの時期でいいんじゃないかなと考えています。
よりたくさんの方々とコミュニケーションを取りたくて、英会話続けてます。
特に今は、歌舞伎にはまっていまして、オタクになりたいです(笑)ちなみに競艇もマニアです。ギャンブルはしないのですが、競艇は大好きです。
―多方面に興味のある智子さんが、会ってみたいと思う方って、どんな方が多いですか。
ミーハーですが、今の時代、何かの記事で読んだりした人に会えるんじゃないかと思っています。例えば、Naoさんでもそうですが、これまでは著者の方って遠い存在だったと思うんです。でも、今こうしてラボに入って、プライベートで福岡に来られた時にお会いできたりします。今の時代、いわゆる憧れの方と会えるハードルは下がっていると思っています。
最近では、サウナに興味があって、北海道ホテルの林さんにお会いしたいなと思っていたら、初サウナを林さんご夫妻のレクチャーの元、北海道ホテルで入ることができました。
―ちなみに、普段情報を得ている方の共通点はありますか。
大きな視点で物事を捉えられている経営者の方々ですかね。さまざまな方にお会いするたびに、私はプレイヤー気質だなって感じています。
Honda Lab.に参加して積極的にチャレンジできるように
―最後に2つ教えてください。ラボに加入して変化したこと、刺激を受けたことはありますか。
積極的にチャレンジができるようになったと思います。今回のインタビューのオファーも、これまでの自分だったらお断りしていたと思います。でもやってみたいと思ったので、お引き受けすることにしました。
皆さん年齢に関係なく、輝いているじゃないですか。「人生は壮大な実験だ」を、本当に実現されている方々ばかりなので、私もその中の1人になれるように前向きになっています。ただやっぱりなかなか緊張しやすいタイプなので、これからより積極的に参加できるように頑張ります。
―最後にラボのメンバーに向けて、メッセージがあれば伺えると嬉しいです。
何かを自分で企画することはあまりないと思うのですが、福岡でもいろいろイベントが企画されているので、時間を作れるようにして参加したいと思いますので、よろしくお願いします。
今回の「Honda Lab. SPOT LIGHT」では、福岡と東京のデュアルライフを送りながら、酒販会社、飲食店、酒碗ギャラリーなど、さまざまな事業を手がけている庄島智子さんにお話をお伺いしました。ともさん、貴重なお話をありがとうございました!
今後もHonda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきます。お楽しみに!
interview @みぃ @しゅーへー @まいまい
Text by @Yasuto