大阪~神戸の阪神間に横たわる六甲山脈の端から端までの山々の頂きを繋ぐ全長56Km六甲全山縦走路と言われる関西屈指の名物トレイルがあるのですが、その縦走路を舞台に個人が主催する国内最大級規模の壮大な草レース「六甲縦走キャノンボールラン大会」が毎年春と秋に開催されます。


その第24回大会へ直前に負った足の怪我を抱えたまま強行出場してきました。

この大会の面白いところは通常のトレイルランニングレースとは異なり、キャノンボールの名の通りルール無用(最低限のルールと条件は有り)スタートとゴールが決められておりその間を動力を使わなければ何でもあり、人力、MTB、馬、ミニチュアポニー・ウィングスーツ、グライダー、スケボーなどなど、とにかく六甲縦走路を駆け抜け一番早くゴールした者が勝者!

というジャンルを問わず草レースならではの異種格闘技レースであるところ。

実際にMTBを担いでる人もいるし極まれに一輪車、スケボーなどでチャレンジする強者もいます。

《その他主なルールとして》
・とにかく死なないでね
・酒に飲まれないでね    ※エイドでアルコール補給可
・怪我・事故は基本自己責任でね
・細かい事は気にしない、あまり文句を言わないでね
・エイドでは投げ銭してあげてね


今年で十数年目となりますが、その独特の熱狂がトレイルランナー達の間で噂が広まり、それが年々大きなうねりとなり第一回はたった25人の酒場仲間で始めた「結局誰が一番早いんだ競争」が今では全国から千数百人ものランナーが集う国内最大級の草レースにまで発展するイベントとなってるんです。

今では長距離セクションも増え2日間走り続ける参加者も多く、それをサポートする私設ボランティアエイドもどんどん増え本格カレーやお酒も沢山振る舞われ、辛くなるところには本能を呼び覚ます大人の〇〇本エイドも用意されていて、特に男性には最後の気力を絞り出させてくれるんです。

年を重ねそれら名物化し一種のフェス的お祭りイベントとしての色が強くなってきているように思います。


始まりは地元のアスリートが頼るランナー整体師の知り合い間で酒盛り中、様々なジャンルのランナーがいるがこの中で結局誰が一番強者なのか?

んじゃ~一緒にスタートして細かいルール無しでだれが最初にゴールにたどり着けるか競争してみて最強キャノンボーラーを決めようや!

という酒の勢いで出た話から近しい希望者25人が集まり決着のため始めたことがルーツなのだとか。

それがランナー仲間の間で噂となり、その噂がまたさらに広がり俺も私も参加させてー!
が乗算されあれよあれよという間に千人規模まで膨れ上がる事態に。

まるでギネスブックの誕生秘話のようなエピソードですが、当時酒の席で発し仲間内で始めたプライベートな競争が全国津々浦々から千人以上のランナーが集う熱狂イベントに発展するとは思いもしなかったんじゃないでしょうか。


これだけの規模に拡大しても運営は基本当初言い出しっぺの4人、それ以外は共感したボランティア達で成り立ち、広告宣伝費も一切かけることなく告知はFBのみ、決済方法もこのご時世でも銀行振込のみととても不便で原始的。

それなのになぜこのような熱狂的なムーブメントに発展したのか・・
ビジネスマーケティング的な視点でみると実に謎であり何か隠されたミソがあるのではないか?

今回私もトレイルランナーの端くれとして初参加し、全縦走路を走りながらその真相?に迫ってみることにした。


その熱狂の渦の中に飛び込んでみて目にしたもの感じたこととは…

規模も様相も大きく様変わりしましたが今でも創設時のキャノンボールスピリッツは一切ブレることなく受け継がれ、アンオフィシャルで少しアウトローなテイストを残しながらも参加者は同じゴールを目指す仲間として互いを励ましあい、特に100マイルチャレンジャーには敬意をもって暖かい応援の声掛けをしたり、、

レースでありながら必ずエイドには立ち寄り感謝の投げ銭、旅は道連れよろしく初参加の迷子ランナーを救いながらゴールを目指し最後にしびれる達成感を共有し讃えあいます。


この旅路の中でランナーそれぞれにドラマがありこの体験を通して参加者はやっぱりトレランていいよね!
順位や結果だけを追わないレースも面白いよね!
何か他のレースでは味わえない楽しさあるよね!
また参加したいよね!

となり誕生した新たなキャノンボーラーは自分の仲間や知り合いとこの体験を共有させたくて新たな候補生(挑戦者)を引き連れこのチキチキマシン猛レースに戻ってくるんですね。
自ら体験してみてなるほど!と思いました。

実際おかわり君率が非常に高いのもキャノンボールランの特徴のようです。

この熱量のせいなのか酒のせいか昼でも夜でもやたらテンションが高い人が多いように感じました。(何時間もただ走っているのでそもそもアドレナリンが吹き出ししている集団なのでこんな感じになるのだとは思いますが)


この週末はとても寒くて終日激しい暴風雨が吹き荒れる天候での初参加となってしまいましたが、この厳しいコンディションの中諦めず脚を引きずり何度も歩きながら13時間かけてゴールまでたどり着いたことで感じえたこと、その余韻と記憶の中で自分なりの答えが見えてきたように思いました。

オーガナイザーのマネージメントは最低限、少し物足りないぐらいでいい、目指す方向性となる想いや理念を掲げブレなければやがて共感者にスピリッツとして共有されていく、それが一つのカルチャーとして醸成されファンが集う。

そうして生まれたカルチャーはファンが繋ぎより良いものに自ずと創り上げていく、言い出しっぺは必要な時にちょっと軌道修正するぐらいで。このように自発的に発展したファンベースの塊はしなやかで途切れにくくとても強固なものになる。

作り手側が意図して仕掛け過ぎるとファンは萎えてしまう、まるで動物園の動物達が野生の本能を失っていくように…


実際キャノンボールレース参加者は本気で順位や記録を競うもの、己の限界に挑むもの、エイドで酒を飲みまくることが目的の人、仲間・恋人を見つるための人(この目的のランナーはゼッケンに〇募マークを描いておくことをルール上に明記されている:私も雨でなければ描いて目立つようおでこに貼ろうかなと企んでいた、、とかいないとか)など目標は様々でありながらそのカルチャーに習いボランティアエイドには立ち寄り投げ銭し感謝の気持ちを伝える、また途中で心が折れかけている人、不慣れで迷える子羊には積極的に声をかけ、名物ランナーとすれ違えば写真もおねだりする、大会中・大会後にも荒れたコース整備するもの、全コースのゴミを回収しながら再走する人達、と各々が率先してキャノンボールスピリッツに染まっていっているように感じました。


共感したファンと共に体験した価値観と熱量が各々を能動的に動かし周りに伝播させる、そしてその連続がやがて大きなうねりとなっていく。

キャノンボールの熱狂ムーブメントはこのようにして発展したんじゃないかと疲労困憊の中でも気持ち良い余韻に浸り記憶を辿り出てきた結論でした。


昨今のビジネスの世界で大きなストリームとなってきているファンベースマーケティングのヒントがこの「六甲縦走キャノンボール大会」の険しい道中にコロコロ転がっていたように思ったのでラボの皆さまと共有できればと思い紹介させていただきました。


また別の機会に一人のトレイルランナーとしてのキャノンボールレース体験記も綴れたらと思います。

山の中で土砂降りの冷たい雨に終日打たれながら13時間無心で駆け抜けるとたどり着く未知の境地もあり、味わったことのないしびれる達成感も味わえるんですね。

興味がある方おられましたら誘います、次はあなたがキャノンボーラーだ!