第25弾は、株式会社ダイナトレック取締役の佐伯 卓也(@たくやん )さんにお話をお伺いしました。ダイナトレックの取締役を務める傍ら、みらいDXアカデミーを設立するに至った経緯、そしてたくやんさんの仕事に対する思い、大切にしている価値観とは?
ダイナトレック 取締役 佐伯 卓也さん
株式会社ダイナトレック取締役 | 一般社団法人『みらいDXアカデミー』事務局長 | 地方銀行のみならず地域の中小企業や自治体のDXを促進する。また、自らが手掛けるイベントを仙台やサンフランシスコなど各地で開催。
地方創生をDXで加速! 地銀・中小企業のDXを支援するみらいDXアカデミー設立
―まず初めに、現在のお仕事の内容から教えてください。
現在、株式会社ダイナトレックの経営に携わっています。主に地方銀行や日本の大企業向けにデータ分析ツールの販売とコンサルティングを行っている会社です。
そして最近、みらいDXアカデミーという一般社団法人を設立しました。地方銀行向けのコンサルティングを行う中で、地域や地方の発展には、地方銀行だけでなく、その先にある地域の中小企業や自治体の変革も重要だと強く感じたんです。そこで、地方の中小企業や自治体のDX支援、つまり新しい変化を後押しする取り組みを始めました。
この取り組みの一つが「DXトレーニー」です。これは地方銀行から出向してきたトレーニーが、当社とつながりのある地方の中小企業や自治体に出向するというものです。民間企業や自治体ではDX人材は常にニーズが高く、外部の視点を取り入れたDX推進を行う上で、データの取り扱いに長けた銀行員のトレーニーのノウハウはとても貴重です。また銀行員も、実際のビジネス現場や住民と接する場でDXを推進する経験を積むことが可能になります。
具体的な例を挙げると、@イトケン が経営する東北地方で大手の住宅メーカー・あいホームに協力してもらい、何度かDXトレーニーを受け入れてもらっています。同社では、DXプロジェクトの推進について社長のイトケンのもと、システム部門の数人が中核となって動いています。そこに我々のスタッフが加わり、サポート役として活躍しています。
さらに、みらいDXアカデミーの活動の一環として、2024年3月には仙台であいホームと共同でイベントを開催しました。「あいホーム&ダイナトレック」のダブルネームで行ったこのイベントは、地方の中小企業と金融機関の新しい関係性を提案することが目的でした。
▽仙台ミートアップの様子は下記URLから
あいホームのような地方の優良企業は、今後も金融機関との取引を深めていく中で、調達コストの低さだけでなく、DXコンサルティングまで提供してくれるような、付加価値の高い関係性を求めています。そこで、地方銀行と地域の中小企業を一堂に集め、こうした新しい関係性への関心を高めるイベントを企画したのです。
結果として、多くの地方銀行関係者にも参加いただき、かなりインパクトのあるものになりました。このような取り組みを通じて、地域経済におけるDXの重要性と、金融機関の新たな役割について、参加者の方々に深く考えていただく機会を提供できたのではないかと思います。このイベントの成功は、みらいDXアカデミーの目指す方向性、つまり地方創生とDXの融合、そして多様なステークホルダーの協働の可能性を示すものだったと感じています。
自治体向けの活動としては、2024年6月には石川県羽咋市や金沢大学などと包括連携協定を結びました。ここではデータ活用を通して住民の方々の福祉の向上や、震災からのより速やかな復興を目指していきます。
1人では変えられない。仲間と共に世の中を動かす
―実際に、自ら事業を推進する立場に転換されて、仕事の楽しさややりがいに変化はありましたか?
そうですね。最も面白いと感じているのは、自分の力だけでなく、周りの人たちを巻き込みながら大きな変化を生み出していくプロセスです。みらいDXアカデミーの設立も、そんな思いから始まりました。
自分の力だけでは限界がありますが、同じ志を持つ仲間や応援してくれる人たちと一緒に動くことで、より大きな影響力を持てると実感しています。そうして周りを巻き込んでいくことで、社会全体を動かしていけるのではないかと、そんな手応えを感じています。
―そういった思いや現在の活動の根底には、何か特別な経験があるのでしょうか?
実は、大学生時代には文化人類学を学び、アフリカの開発問題について研究していたんです。エチオピアの山奥やジブチの砂漠地帯にあるスラム集落で調査を行いました。
その経験の中で、忘れられない出来事があります。
ある日、現地の6歳くらいの子供に「もうここにいても絶対にいいことがないから、日本に連れて帰って欲しい」と言われたんです。大学生の私には、その子を日本に連れて帰ることなど到底できません。現地の人々の生活を良くするために調査に来ていたはずなのに、即効性のある解決策が見つからない。個人の資金にも限りがあって、その子一人に何かを買ってあげたとしても、全ての人にそれを行うことはできない。結局、「君のことは連れて帰れないよ、どうすることもできずにごめんね。」と謝ることしかできませんでした。
この経験から、個人の力だけでは大きな問題解決は難しいということを痛感しました。しかし同時に、多くの人を巻き込んで協力することで、より良い社会、より生きやすい世の中を作れるのではないかと考えるようになったんです。一人では限界があっても、多くの人が力を合わせれば、大きな変化を生み出せるのではないか。そこから、人々の価値観に訴えかけ、あるべき社会の姿への変化を広げたいという思いで、卒業後はPR会社に入社しました。
この経験は、現在の活動にも大きな影響を与えています。みらいDXアカデミーの設立も、多くの人々や組織を巻き込んで社会を変えていきたいという思いが根底にあります。
―コーチングのライセンス取得も、そういった考えが背景にあるのでしょうか?
はい、その通りです。シナジーを生み出すには、相手の想いや目標をしっかりと理解する必要があります。コーチングスキルは、現状のしがらみや自分に対するネガティブな視点から離れ、相手が本当にやりたいことや描いているゴールを引き出し、それに向けた道筋を一緒に考えるのに役立っています。
例えば、「DXを推進しましょう」と言っても、具体的なゴールが明確でないと、トランスフォーメーションでなく、単なるツール導入で終わってしまう可能性があります。相手が本当に実現したいことは何か、どのような未来を描いているのかを丁寧に聞き出し、それに合わせたDX戦略を提案することが重要だと考えています。
「自分の定規」で繋がる、多様な価値観とのコミュニケーション
―佐伯さんが大切にされている価値観について教えてください。
「自分自身の物差しを持つこと」を大切にしています。他人の価値観だけで判断せず、自分の目で見て考えることを心がけています。
例えば、少し変わった人がいたとして、周りが「あの人は変だ」と言ったとしても、その人なりの理由や特別な才能があるかもしれません。だからこそ、自分の目で見て判断するようにしています。
これは先ほどのコーチングの話にも通じますが、相手自身も気づいていない可能性や潜在能力を見出すことがあります。そういった気づきは、私なりの視点で感じ取ったものなので、きちんとフィードバックするようにしています。
―お仕事で全国各地を訪れる中で、地方の特色を理解するために心がけていることはありますか?
出張先では、現地の客先の担当者の方々やチームとしっかりコミュニケーションを取ることを大切にしています。東京にいると東京の常識だけで物事を見がちですが、日本の各地域には独自の文化や慣習、食文化があります。それらをきちんと理解し、尊重しながらビジネスを進めることが重要だと考えています。
特に我々は銀行のシステムを扱うことが多いのですが、システム構築にもその地域ならではの考え方や歴史が反映されています。例えるなら家づくりのようなものです。なぜこの家がこの形なのか、なぜ庭がこの広さで、2階建てではなく3階建てなのか、そこには必ず理由があります。
同じように、システムにも長年かけて築き上げられた背景があるんです。東京からきた自分が、東京で学んだ価値基準だけで判断すると、見誤ります。良い悪いで判断するのではなく、その背景を理解し、尊重することが大切だと考えています。
個と個のシナジーで加速する、自分自身と仲間の成長
―今後、佐伯さん自身が挑戦しようと考えていることはありますか?
みらいDXアカデミーを立ち上げたばかりなので、まずはより多くの魅力的な中小企業の方々とコミュニケーションを取り、彼らの目標達成をサポートしていきたいですね。必要に応じてDXトレーニーを派遣するなど、具体的な支援も行っていく予定です。
また、最近アメリカにも進出し、現地の銀行との対話の機会が増えています。興味深いことに、日本の銀行が抱える悩みとかなり共通点があるんです。DXの遅れや、属人的なシステム運用など、課題は似ています。今後10年間で、日本市場で培ったノウハウを活かし、アメリカをはじめとする海外市場でも挑戦していきたいと考えています。
実際、今年はアメリカへの展開を本格的に進めています。当社が入居している経産省運営のシリコンバレーのインキュベーション施設、Japan Innovation Campus(JIC)では、現地の投資家や銀行関係者、大使館関係者を招いてイベントを開催しています。
アメリカにソフトウェアを持っていくのは、インドでインド人相手にカレーを売るくらい難しいと言われます。しかし、西海岸の知識層は一般的に日本のことが大好きなんです。その理由は、寿司を含む日本の食文化に大変な敬意を払っているからです。
そこで、この文化的側面を活かそうと「DYNATREK SUSHI PARTY」を企画しました。このイベントには、昨年スシアカデミーを卒業したシゲさん(@しげ )と、シリコンバレーの日本人コミュニティに幅広いネットワークを持つKyokoさん(@Kyoko @ SF BayArea )が多大な協力をしてくれました。
当初は近所のスーパーで買ってきたカリフォルニアロールを並べてお茶を濁すつもりだったのですが(2人には秘密です 笑)、最終的にはシゲさんがやま幸のマグロをハンドキャリーし、JICで寿司を握るという素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。トロの味に、現地の美食家や、日本大使館の領事たちも舌鼓を打っていました。仕入れにはナオさん(@Nao )もやま幸さんにお話をして下さったそうで、この場を借りて御礼申し上げます。
準備段階では、マグロの保存に-80度の冷凍庫が必要と判明し、一時は暗礁に乗り上げたかと思いました。しかし、Kyokoさんが相談後わずか3分でお知り合いの現地の和食店と話をつけてくださり、彼女の現地ネットワークの凄さを思い知らされました。
このイベントを通じて、今後も、日本ならではの強みを活かすことが特に重要ということを思い知りました。これからも海外展開を積極的に進めていきたいと考えています。
ーHonda Lab.に加入されてから変化したことはありますか。
ラボメンバーの強い個を持っている人たちと接する中で、自分自身について深く考えるようになりました。昔は自分自身が媒介となって人と人を繋ぐことが重要だと思っていましたが、今は敢えて自分自身を強く持ち、自分の強みやできることを認識した上で、相手と強みやできることとの掛け算を考えています。そういった意味でも個と個の掛け算が生まれるプラットフォームとしてのHonda Lab.の存在は有難いですね。
―最後に、Honda Lab.のメンバーへメッセージをお願いします。
実際に自分で行動を起こしてみて初めて、こんなにも面白い人たちがいることに気付きました。
イベントに参加したり、セミナーを聴講したりするだけでなく、皆さんどんどんコラボレーションを仕掛けていってほしいです。私自身、仙台やアメリカでのイベントを通じて、新しいものが生まれる喜びや、そこから得られた経験は計り知れないです。
僕が何か手伝えることといえば、たとえば誰かとコラボしたいけど、どういうふうな話の仕方がいいんだろうかとかっていうのは、いろいろアドバイスできるかもしれないです。そうして各自の熱量を増やしていくことがコミュニティーの資産にもなるので、Honda Lab.はそういうふうに使うのが一番いいんじゃないかなと考えています。
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今回の「Honda Lab. SPOT LIGHT」では、佐伯卓也さんのお仕事に対する思いから、コミュニケーションの真髄、そして海外進出といった今後のビジョンまで、様々なお話を伺うことができました。@たくやん さん、貴重なお話をありがとうございました!
今後もHonda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきます。お楽しみに!
interview by @しゅーへー @Kei
Text by @しゅーへー(大箭周平)