第四十七弾は、現在、スタイリストの松田有記(@ユウキ)さんにお話を伺いました。HondaLab.のモデレーターでもあり、パーソナルスタイリングから法人のブランディングまで幅広く手がける松田さんがスタイリングで大切にしていること。そこには、服という枠を超えた松田さんならではの哲学がありました。唯一無二の感性が紡ぎ出す「想い」と、これから表現してゆきたいものとは ?

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スタイリスト。スタイリスト杉山裕二氏に師事し、21歳で独立。ファッション雑誌、広告、タレントをメインにメンズ、レディース、キッズなど、ジャンルを問わず活躍。現在は、個人向けのパーソナルスタイリングや企業向けのスタイリング提案も行い、多角的に活動を展開している。休みの日には、古着屋巡りを楽しむ。HondaLab.モデレーター。
著書・監修『プチプラ・メンズコーデ術(エイ出版社)』(https://amzn.asia/d/02k4CTv9
雑誌:東京カレンダー、オーシャンズ、HANAKO,CREA    等

独立29年、「NO」と言わないスタンスが築く唯一無二のキャリア

ーまず最初に、現在の仕事、これまでの経歴について教えてください。

    現在、フリーランスのスタイリストとして活動しており、今年で独立して29年目を迎えます。これまで一度も組織に属することなく、一貫してフリーランスという立場でキャリアを築いてきました。仕事における基本的なスタンスは、「スケジュールが空いている限り、どのような案件も断らない」というものです。新しい挑戦はすべて自分自身の学びとなると考えているため、常に「何でも吸収する」という姿勢を大切にしています。ありがたいことに、これまでの経験を活かせるものから未経験の領域まで、非常に幅広いご依頼をいただいています。

    以前はファッション誌での仕事が全体の8〜9割を占めていましたが、デジタルデバイスやSNSの普及に伴い、出版業界の状況も大きく変化しました。特にメンズ誌は休刊が相次ぐなど厳しい状況にあり、それに合わせて私の活動領域も変化してきました。現在は、雑誌だけでなくタレントのスタイリングや広告、経営者や個人事業主の方々を対象とした「パーソナルスタイリング」など、多岐にわたるご要望にお応えしています。パーソナルスタイリングの仕事は、「クライアント様が必要とされたタイミング」にご提案しており、春夏・秋冬といった半期に一度のペースでワードローブを新調される際にご相談いただくことが多いです。

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    実は私が「パーソナルスタイリング」を本格的に始めるきっかけとなったのは、本田直之さん(@Nao )なんです。約7年前、共通の知人のご紹介で初めてお会いし、そこから現在まで専属でサポートさせていただいています。最初はご自宅のクローゼットの整理から始まりました。膨大な洋服の中から「今必要なもの」と「そうでないもの」を仕分け、特に海外出張やレストランでの会食に合わせて、迷わず手に取れるよう複数のスタイリングを組んで写真に収めるところからスタートしました。

    正直にいうと、パーソナルスタイリングの方が難易度は圧倒的に高いです。モデルやタレントさんは、もともと体型が整っている方が多いですが、一般の方は体型の悩み(背の低さ、体型の変化など)を抱えていらっしゃるのが普通です。しかし、その悩みを「プロのテクニック」で解決し、おしゃれに見せることが、スタイリストとしての腕の見せ所でもあります。当時は、まだパーソナルスタイリングをしている方もいなかったため、この経験を通じて、自分自身の感覚も非常に磨かれたと感じています。

企業の価値を高める「トータルスタイリング」の展開

ー企業向けのお仕事についても詳しく教えてください。

    実は、現在の法人向けの案件、HondaLab.のメンバーでもある伊藤謙さん(@イトケン )からご依頼をいただいたのがきっかけでした。仙台の会社であるイトケンさんの「株式会社あいホーム」との取り組みをキッカケに他社様でもご縁をいただき、継続してサポートさせていただいています。
    企業向けのサービスでは、単に制服を整えるだけでなく、社員の方々に向けて「トータルで自分をどう見せるか」という視点での講演会やアドバイスを行っています。具体的には、私服の着こなしから、さらに踏み込んで身体の管理にまで言及することもあります。服というものは、その方の体型や日々の生活習慣が如実に表れるものです。そのため、スタイリングの提案にとどまらず、健康面の意識向上や運動の重要性などをお伝えすることもあります。

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師匠への弟子入りから、異例のスピード独立へ。未知の領域を切り拓いてきた、圧倒的な行動力

ー会社に属さず、若くして独立された経緯について教えてください。

    出身地である新潟の高校を卒業後、ファッションの世界に身を投じるため上京しました。バンタンデザイン研究所のスタイリスト科で2年間学び、卒業後すぐにスタイリストの杉山祐治氏に師事し、専属アシスタントとなりました。通常、この業界では3年から5年の修行期間を経て独立するのが一般的ですが、私の場合は非常に早く、わずか1年半で師匠から「もう独立していいよ」と背中を押していただきました。そのため、フリーランスとして歩み始めたのは21歳の時。そこから今日まで一度も組織に属することなく活動を続けています。

ー最初の仕事はどのように開拓されていかれたのでしょうか。

    当時は今のようにSNSもなかったので、自ら動くしかありませんでした。そのため、自分の作品を大きなポートフォリオ(ブック)にまとめ、片っ端から出版社へ電話をかけ、営業に回りました。21歳の時に7誌ほどにアプローチしたのですが、当時は若いスタイリストが少なかったこともあり、幸運にも5誌ほどからお仕事をいただくことができました。
    最初は「物撮り」と呼ばれる、スニーカーやデニムなどの商品単体のスタイリングからスタートし、そこから少しずつ信頼を積み重ね、雑誌でのモデル撮影へのスタイリングへと活動の幅を広げていきました。当時のファッション業界において、雑誌はメインメディアでした。そのため、クレジットとして「スタイリスト:松田有記」と名前が載ることは大きな意味を持っていました。時には「おすすめの春夏アイテム」といった企画で自ら誌面に登場することもあり、そうした積み重ねが、名前と顔を売る大きな足掛かりとなりました。

    フリーランスには営業を代行してくれる組織がありません。だからこそ、どのような案件も断らず、まずは挑戦する姿勢を貫いてきました。今はもう行っていませんが、ファッション雑誌の企画でモデルのスタイリングだけでなく、部屋全体の空間演出まで同時に手掛けていたこともあります。自分自身が新しいことに挑戦することが好きだったこともあり、未知の領域であっても自分自身で学び、現場で吸収しながら形にしていく。その「走りながら考える」スタンスが、結果として仕事の幅を大きく広げてくれました。

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【多岐に渡る仕事内容(左:Webメディアでの企画、中央:ZOZOが行っていたパーソナルスタイリングサービス、
右:雑誌の特集ページでのスタイリング)】


ーファッションに興味を持つきっかけは何だったのでしょうか?

    実は、ファッションに目覚めたのはかなり遅い方なんです。中学・高校時代は部活の卓球に明け暮れる毎日で、常にジャージで過ごすような少年でした。転機は、高校2年生の時。所属していた部活動の環境が変わったことで情熱の矛先を失い、ふと手に取ったのがファッション誌でした。

    そこから一気に洋服の魅力に取り憑かれ、「それなら、どんな職業があるんだろう?」と探した結果、行き着いた答えがスタイリストでした。「もっとたくさんの洋服を見たい、関わりたい」という一心でスタイリストという職業を志しました。当時の雑誌『CUTiE』などの誌面で見た、圧倒的な個性を放っていたバンタンデザイン研究所の広告を見て、ここで学びたいと半ば勢いで上京を決めました。昔から行動力がある方かもしれません。

「型」に合わせない。バックグラウンドから紐解く唯一無二のスタイリング

ー幅広い案件を手掛ける中で、共通して大切にされていることはありますか?

    特に最近増えている経営者や取締役の方々のパーソナルスタイリングで、私が最も意識するのは「着心地」です。ビジネスの第一線で多忙な日々を送る方々にとって、いくら見栄えが良くても、窮屈でストレスを感じる服は「負け」だと思っています。「機能的で、着ていて楽であること」は何よりも大前提です。
    もう一つ欠かせないのが「色」の活用です。オールブラックもかっこいいとは思いますが、私はコーディネートの中で1-2色のカラーを取り入れる提案をしています。色は身につける人の気分を高め、一日のエネルギーを左右するもの。特に日本人の色使いは、他国と比較してもおしゃれだと感じています。そのため、雑誌やタレントの仕事でも色を効果的に使うことを大切にしています。

ー最近はパーソナルカラー診断なども流行っていますが、どのように色を選ばれていますか?

    実を言うと、私はそうした診断結果はあまり気にしていません。もちろん、肌や髪の色は参考にしますが、それ以上に重視するのは、その方の「ライフスタイル」や「歩んできた背景(バックグラウンド)」を見てスタイリングしています。

    例えば、先日手掛けた日本弁護士連合会(日弁連)の会長選に立候補された先生のスタイリングでは、1年間の選挙期間を通した装いとして、4着のスーツをスタイリングをしました。その際、先生の出身地である山形県の県花、紅花の「オレンジ」を、すべてのネクタイのどこかにポイントとして取り入れました。単に「似合う色」を選ぶだけなら簡単です。しかし、その人のルーツやバックグランドを尊重し、装いに宿すこと。それがプロの仕事だと思っています。パーソナルカラーという「型」に合わせるのではなく、これまで培ってきた感性を大切にしながら、その人をどう引き立てるかを提案をしてゆきたいと思っています。

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【日本弁護士連合会 会長の松田純一弁護士     スーツスタイルのディレクションとスタイリングを担当】

ー独自の感性は、どのようにして磨かれているのでしょうか。

    映画や海外の雑誌から刺激を受けることもありますが、一番は日々の現場での積み重ねだと思います。私は服だけを見るのではなく、その方の髪型、メイクまでトータルでの第一印象を見ています。撮影現場では、ヘアメイクさんと「この服なら、髪型はどうしましょうか?」と相談しながら、全体のバランスを追求していきます。このプロセス自体がとても楽しいです。

スタイリングの現場でも感じる、AIとの境界線

ー近年、AIの活用が進んでいますが、スタイリングの現場でも影響を感じることはありますか?

    自分自身があくまで自分の感性を大切に仕事をしているため、スタイリングの工程でAIを活用することはありません。しかし、業界全体を見渡すと、急速な変化を肌で感じます。特に広告の世界では「AIモデル」の導入が進んでいます。通常、タレントやモデルを起用すると多額の契約料や競合避止などの制約が生じますが、AIモデルであればそうしたコストやリスクを大幅に抑えられます。撮影後に顔の造作をAIで加工し、クライアントがその画像の権利を持つという形です。現場では「AIが反応してしまうため、ピアスや眼鏡はNG」といった独特の制約もあり、これまでとは異なる撮影の在り方が広まっています。

    ただ、展示会などでAIが作ったビジュアルを見かけると、どこか「不自然な違和感」を覚えることがあるんです。今のところ、その微細な違和感を感じる感覚に、人間とAIの違いがあるのかなと感じています。今後、AIがさらに進化して、もしかしたらスタイリストがいらなくなる時代が来るのかな、なんてことも考えたりしますが、ある意味ではこれから先どうなっていくのか、楽しみに思っている部分もあります。

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バイタリティの源は「服が好き」というシンプルな想い

ー様々なことに挑戦をし続けられるそのバイタリティは、どこから湧いてくるのでしょうか。

    結局のところ、17歳で服に目覚めてから現在まで、一貫して「ただただ、服が好き」という一点に尽きるのだと思います。常に最新の情報をアップデートするため、メンズ・レディースを問わず展示会を巡り、トレンドを追う一方で、休日には町田や千葉、茨城といった郊外へ足を運び、古着屋をまわっています。
    古着はすべてが一点物です。自分にぴったりのサイズに出会えた時の喜びはもちろんですが、古着ならではの味や「今の現行品のルーツ」がそこにあるため、非常に勉強になります。それは地方への出張時も変わりません。地方撮影の折には、必ずと言っていいほどその地域の古着屋を覗きます。

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【都内で訪問したヴィンテージショップのひとつ】

難題であるほどおもしろい。スタイリストとして挑み続けたい場所

ー今後の展望について教えてください。

    普段お仕事をご一緒するタレントさんやモデルさんとはまた異なる、文化人や知識層の方々が持つ独特の空気感やのようなものには、私も非常に強い影響を受けることが多いです。それもあり、芸能界やエンターテインメントの世界はもちろんですが、今後はさらに、経営者の方々や文化人の方とも深く関わっていきたいと考えています。なかなか出会えない方たちでもあるので、その方たちのバックグラウンドを意識しながらインスピレーションを広げ、スタイリングをし続けたいと思っています。

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    また、最近、非常におもしろいと感じているのが、企業様と取り組むスタイリングです。 例えば、3年ほどサポートしている住宅メーカーの「株式会社あいホーム」様では、営業の方の装いを一新しました。当初はネイビーなどの暗い色が中心でしたが、お客様に安心感と明るい印象を与えるため、ベージュやブラウンを基調としたスタイルを提案しました。白のインナーを合わせることで顔映りを良くした結果、クライアントから「お客様の反応がとても良くなりました」と喜びの声をいただきました。
    さらに、住宅建設の現場で働く方々の作業着もスタイリングしました。「作業着のまま買い物に行ける、帰り道も楽しめる服」をコンセプトに、デニム素材のセットアップなどを提案したところ、現場の皆さんから大変喜んでいただけました。 ファッションに興味がなかった方が、プロのアドバイスによって周囲の反応が変わる喜びを知り、その「橋渡し」ができることは、この仕事の醍醐味だと感じています。今後はこうした「企業×スタイリング」という面白い取り組みを、さらに広げていきたいと考えています。
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【株式会社あいホーム様との取り組み】
    そして、実はアスリートのスタイリングには、芸能人の方とはまた違う「格別なテンションの上がり方」を感じています。自分自身も運動が好きなこともあり、柔道の阿部詩選手をはじめ、格闘家など多くのアスリートを担当してきましたが、彼らの内側から溢れ出る強さや身体能力には、理屈抜きに惹かれます。スポーツ選手は、競技によって筋肉の付き方が全く異なります。太ももが極端に太かったり、お尻が大きかったりと、既製品がそのままでは入りにくいという課題もありますが、その状況をプロの力でかっこよく見せる提案ができることがとても楽しいです。 アスリートの魅力を引き出す仕事は、これからもずっと続けていきたいですね。
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【左:柔道選手の阿部詩さん・サッカー選手の槙野智章さん    /    体操選手の田中理恵さん】
ーお話を伺っていると、松田さんは困難な条件であればあるほど燃えるタイプですね。

   
その通りです(笑)。特にアスリートの方々のスタイリングは、常に体型との戦いです。はち切れんばかりの筋肉を、単に「入るサイズ」で包むのではなく、いかにスタイリッシュに見せるか。そのせめぎ合いにこそ、プロとしての腕が試されます。予備の衣装を山ほど抱え、現場で微調整を繰り返す。苦戦することも多いですが、それ以上に「かっこよさ」を引き出せた時は本当にうれしいです。

多様な「生き方」が刺激に。Honda Lab.で燃え上がる、スタイリスト魂

―Honda Lab.に入って変化したことはありますか。

    私はLab.のイベントなどにそれほど頻繁に参加できているわけではないのですが、本当に多様な方々がいらっしゃると感じています。普段の生活ではアパレル関係の方と出会うことが多いので、本田さんに背中を押していただいて入会したこの場所で、普段出会えないような職種の方たちと接点を持てることは、私にとって大きな刺激になっています。先日の本田さんのブログにも一読者として、刺激をいただきました。ブログなどはあまり更新できていないのですが、私にとってHonda Lab.のみなさんの挑戦や思考に触れられるこの環境は、非常に楽しいです。

ー最後に、HondaLab.の皆様へメッセージをお願いいたします。

    私は普段、基本的には一人で動いています。すべて自分で考えてスタイリングをしているので、会社を経営されている経営者の方の姿を拝見すると、本当にすごいと感じます。そういった方々に対して、少しでも自分がお力になれればという想いがあります。
    自分が知らない職種の方とお会いし、その仕事内容や動き、求められる機能を踏まえてスタイリングを考える時間は、何よりの喜びです。実際にお仕事をさせていただいた方々が、パーソナルスタイリングを通してファッションの楽しさに目覚めてくださり、「また東京へ行くからお願いしたい」と声をかけていただくこともあり、その都度、もっと頑張ろうと気持ちが燃えます。パーソナルスタイリングはもちろん、「組織全体の印象を変えたい」といった法人の方からのご相談も大歓迎です。また、メンズだけでなくレディースのスタイリングも長年手掛けていますので、性別を問わず、その方の魅力を引き出す提案が可能です。
    HondaLab.には、素晴らしい活動をされている方がたくさんいらっしゃいますが、まだお会いできていない方も大勢います。拠点は東京ですが、ご依頼があれば地方へも喜んで伺います。もしイベントなどで私を見かけたら、ぜひ気軽に声をかけてください。

◾️松田有記さんのInstagram
https://www.instagram.com/yukimatsuda123/
※スタイリングの依頼もDMから可能とのこと



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今回の「Honda Lab. SPOT LIGHT」では、スタイリストの松田有記さんにお話を伺いました。インタビュー中、印象的だったのは何度も飛び出した「楽しい!」という言葉です。その明るい響きには、29年のキャリアに裏打ちされたプロ意識と、どんな困難な条件も面白がれるポジティブな情熱が詰まっていました。

一着の服を通じて、着る人のマインドだけでなく、その周囲の空気まで変えていく。そんな有記さんの挑戦し続ける姿に、私も刺激をいただいたインタビューでした。
@ユウキ   さん、貴重なお話をありがとうございました!

今後もHonda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきます。お楽しみに!

interview  @みぃ (細井美里)
Text by     @みぃ  (細井美里)