SPOT LIGHT第45弾は、株式会社ウェルネス 代表取締役の中田 航太郎(@こうたろう )さんにお話をお伺いしました。
「救急医」から「予防医学のパイオニア」へ。 “防げる死”をなくし、後悔のない人生をデザインする挑戦。
救急の現場で目の当たりにした、手遅れになってから運ばれてくる患者たちの無念。
「なぜ、もっと早く」という問いに向き合い続け、たどり着いた答えは、病院で患者を待つことではなく、病気になる前の人生に伴走することだった。
「健康は目的ではなく、より良く生きるための資産」。
そう語る中田氏が提唱する“戦略的健康法”とは?
医師としての葛藤から、起業家としての試行錯誤、独自の習慣形成術、そしてAI時代における「人間としての医師」の価値まで。
データと対話で人生をデザインする、中田氏の革新的なビジョンに迫る。
株式会社ウェルネス 代表取締役医師 | 1991年、千葉県生まれ。東京医科歯科大学(現:東京科学大学)医学部卒業後、救急総合診療医として従事。「防げるはずの病気で倒れる人をなくしたい」という想いから、2018年に株式会社ウェルネスを創業。パーソナルドクターによる予防医療サービスを提供し、医学的根拠に基づいた「ライフスタイル・デザイン」を提案している。著書に『人生100年時代を元気に生き抜く 医師が教える経営者のための「戦略的健康法」』など。
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「異常なし」=「健康」ではない。人生を最大化する“パーソナルドクター”という新しいインフラ
―まず初めに、現在のお仕事内容から教えてください。
現在は、株式会社ウェルネスという会社を経営し、「パーソナルドクター」というサービスを提供しています。我々が掲げているビジョンは、「予防医療の力で、防ぎ得た後悔をなくす」ことです。
私はもともと救急総合診療医をやっていたのですが、救急の現場というのは、どうしても病気が進行し、倒れてしまった後の対応がメインになります。どれだけお金や人脈があっても、タイミングが悪ければ助からない。現代の医療をもってしても、手遅れになってしまうケースをたくさん見てきました。そうやって後悔して亡くなる方をたくさん目の当たりにしてきました。
今の医療システムは「病院で待ち受ける型」ですが、癌や血管の病気といった現代の脅威は「サイレントキラー」と呼ばれ、自覚症状がないまま進行します。症状が出てから来たのでは遅いんです。だからこそ、何かあってから対処する「リアクティブ(受動的)」な医療ではなく、問題が起きる前に能動的に介入する「プロアクティブ(能動的)」な医療へシフトする必要がある。今の病気に勝つためには、医療モデルそのものを変えなければなりません。
私たちは、経営者が顧問弁護士や税理士を持つように、個人の健康にも「顧問医師」を持つべきだと考えています。
具体的には人間ドックなどのデータを深く分析し、将来のリスクを予測した上で、食事や運動、サプリメントなどの戦略を立てて伴走します。いわば、健康寿命を最大化するためのサブスクリプション型の予防医療サービスです。
これまでの人間ドックは「病気を見つけるため」に行われてきましたが、私たちはデータを活用して「将来のリスクを予測し、防ぐため」に使います。通常の人間ドックの約4倍ものデータを取得し、細かく体を分析することで、予測できるリスクの多くを防ぐことができます。死に際に「もっと検査しておけばよかった」と後悔することだけはなくしたい。データドリブンに、ロジカルに予防し、健康寿命を最大化するお手伝いをしています。
▼株式会社WellnessのHPはこちら
https://company.wellness.jp/
―中田さんが定義する「健康」とは、どのような状態を指すのでしょうか?
多くの医療機関は「ヘルス(Health)=病気がない状態」をゴールにしますが、私たちはもっと広義の「ウェルネス(Wellness)」を追求しています。
単に数値が正常であればいいわけではありません。経済的にも、人間関係も、環境的にも満たされ、より良く生きている状態こそが重要です。AI時代において、人類のテーマは「より良く生きること(Well-being)」になっています。
例えば、肝臓の数値が悪いからといって、お酒が生きがいの人に「一生禁酒してください」と言うのは、医学的には正しくても、その人の人生の幸福度を下げてしまうかもしれない。私たちが重視するのは、「どういう人生を送りたいか」というゴール設計です。何歳まで現役でいたいのか、何を大切にしているのか。そのゴールを実現するために、医学的にどうリスクを抑えるかという「戦略」を一緒に考えます。ガイドライン通りの画一的な指導ではなく、その人の価値観に合わせたベストプラクティスを対話で導き出す。それが、これからの医師に求められる役割だと思っています。
「上流のダム」を直さずに、バケツで水を汲み続ける医療への違和感
―なぜ、そのような考えに至ったのでしょうか。医師を志した原体験について教えてください。
医師を目指したのは4〜5歳の頃です。もともとアメリカのピッツバーグという自然豊かな場所で育ったのですが、日本に帰国した際に喘息を発症しました。その時、担当してくれた主治医がとても優しくて、安心感を与えてくれるヒーローのように見えたんです。「自分もこういう医師になりたい」と思い、そこからブレずに医学の道へ進みました。特定の臓器のスペシャリストとして手術を極めることよりも、患者さんと向き合い、安心感を与える存在になりたい。その軸は学生時代から変わっていません。
―そこから予防医療へ舵を切ったきっかけはあったのでしょうか?
医師を志した当初から予防医療を見据えていたわけではありません。そこに至るまでには、私の思考の土台となった「思想の原点」と、大学時代の「決定的な転機」がありました。
私の思想の原点には、学生時代に出会ったいくつかの教えがあります。一つは、大学入学前に読んだナポレオン・ヒルの『思考は現実化する』。そしてもう一つは、漫画『ドラゴン桜』に登場する国語教師の「世の中に『なぜ?』を唱えろ」という教えです。
この「当たり前を疑う」姿勢を高校時代から実践していた私は、世の中のルールに対しても「なぜこうなっているのか」「今の時代には合わないのではないか」と問いを立てる癖がついていましたし、気付きを得るのも得意でした。大学に入ってからも、ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン』を通じて、常識に囚われずゼロから価値を生み出す重要性を学びました。常識とは、環境に合わせて変わるべきものです。前提条件が劇的に変化しているのに古いルールを守り続けることは、単に変化に追いつけていないだけだと考えていました。
そして決定的な転機となったのは、大学5年生の実習で心臓血管外科を回っていた時のことです。 ある日の夕方、50代の経営者の方が緊急搬送されてきました。不安定狭心症、つまり心筋梗塞の一歩手前です。心臓の主な血管が3本とも詰まりかけていて、カテーテル治療では間に合わず、緊急バイパス手術になりました。
多くの医師やスタッフが総出で対応し、ご家族や会社の社員さんたちが不安な夜を過ごす中、なんとか一命を取り留めました。医療ドラマならここで「助かってよかった、ドクターかっこいい」で終わる話です。でも、その後ご本人と話していくと、強烈な違和感を覚えたんです。
その方は幼少期に川崎病を患っていて心臓のリスクが高いと分かっていたのに、定期検査をサボっていた。健康診断の再検査も無視していた。さらに、3ヶ月前から症状の予兆があったのに、「忙しい」や「めんどくさい」を理由に病院に行かなかった。 つまり、倒れるのを防ぐチャンスはいくつもあったのに、すべてスルーして運ばれてきていたんです。
こうした「手前の課題」を現在の医療は解決できておらず、これを解決しない限り、本質的な解決にはならないと痛感しました。例えるなら、川の上流でダムが決壊しかけて水が溢れ出そうとしているのに、下流で必死にバケツで水を汲み出しているのが今の救急現場に見えたんです。本来やるべきは、上流に行ってダムの穴を塞ぐことですよね。でも、今の保険診療の制度では「バケツで水を汲む(治療する)」ことにしかリソースが割かれない。上流で止める方が、社会リソース的にも、本人の幸せにとっても、医師のワークライフバランスにとっても絶対にベターです。救急医を選んだ理由自体も、現場で「なぜ患者さんは病院に来ないのか」をリサーチするためでした 。
学生時代に予防医療を社会実装するというミッションを立て、救急や総合診療の現場で「なぜ患者さんは病院に来ないのか」科学し、それを解決するためのプロダクトを作ったという流れです 。
理想と現実のギャップ。ビジネスとしての苦悩と「教育」へのシフト
―起業後、事業はすぐに軌道に乗ったのでしょうか?
最初は医者からの起業でしたので、「すべての人を助けたい」という気持ちでプロダクトを作りました 。しかし、「それいいですね」とは言われるものの、誰もお金を払ってくれないサービスができてしまいました 。そこで、ターゲットを絞り、より深いペインを解決しなければ、理想論だけではビジネスは成立しないと学びました 。
当時はBtoBで企業の従業員向けに展開していましたが、会社の予算で社員の健康を守るというマインドセットの企業は多くありませんでした 。しかし、稀に導入してくれる社長がいました。そういう社長は、自分が倒れた時のリスクを理解し、プロに頼ることの必要性を網羅的に考えていました 。
そこから「社長にフォーカスしたサービス」を作ろうと考えました。社長が価値を感じて使ってくれれば、従業員や周りの人にも伝播していくはずだと考えたからです 。当時、プログリットの岡田さんの英語コーチングモデルを見て面白いと思い、それをトレースして「3ヶ月短期集中の予防医療講座」をローンチしました 。
しかし、健康は「大事だが緊急ではない」課題です 。英語はビジネスに直結するので危機感を持って時間を捻出してもらえますが、健康にガッツリ時間を割いてもらうのはハードルが高かったのです 。そこで、「入っているだけで勝手に体が守られるプロダクト」に変えました 。
戦略設計、必要な検査、データに基づいたフィードバックまで完結する。年2回の検査、年4回の1時間面談、そして365日のチャット相談。これでやるべき予防医療が完結する、という形にしてから軌道に乗りました 。
―ターゲットに届けるためにどのような工夫をされているのですか?
予防医療は「ジョブ(仕事)」であるべきです 。経営者が倒れれば取引先や社員に迷惑がかかる。自分の体は自分だけのものではないので、仕事として守らなければならない、という啓蒙をしています 。
我々は「チャレンジャー・セールス・モデル」と言っていますが、車が欲しいという人に車を売るような形ではなく、「教える」ところから始めます 。「一般の人間ドックのA判定で喜んでいる人には、東大合格したいのに英語でA判定出てるだけで喜んでいるようなものだ」という予防医療の真実を伝えています 。そうした教育をした上で入会していただくのが、僕らのビジネスモデルです 。
僕は『人生100年時代を元気に生き抜く 医師が教える経営者のための「戦略的健康法」』という本も書いていますが、健康管理は戦術的になりがちです。「このサプリがいい」「この食事法がいい」といった戦術論は溢れていますが、上流の戦略設計がないと、自分にとってマイナスのアプローチを口コミでやってしまったり、やるべきことを見逃したりします。その啓蒙をラジオ(CROSS FM『Dr.中田 The Well-being』)で発信したり、インタビューを受けたり、ひたすらやり続けています 。
人間が興味を持つきっかけは様々です。例えば「あの人が使っているなら間違いなさそうだ」というムーブメント、つまりピアプレッシャーを活用した「社会事象作り」を意識的にやっています 。ロジックだけでなくエモーショナルな要因や周りの環境も複合的に考えて広げています 。
戦略としては「マスニッチ戦略」と呼んでいます 。日本全国に一気に広げるマスマーケティングではなく、特定のコミュニティや業界、エリアに絞って一個ずつ浸透させていくイメージです 。
Amazon.co.jp: 人生100年時代を元気に生き抜く 医師が教える経営者のための「戦略的健康法」 : 中田 航太郎: 本
―現在、多くのエグゼクティブが利用されていますが、パフォーマンスが高い人に共通点はありますか?
「PL(損益計算書)思考」ではなく「BS(貸借対照表)思考」であることですね。 目の前の短期的な利益や売上だけでなく、長期的な資産形成の視点を持っています。健康も「資産」です。何もしなければ目減りし、いつか倒産(病気)してしまう。人脈や人間関係といった「簿外資産」も含め、これらを長期的な目線で捉え、投資できる人は、経営でも人生でも成功し続けていると感じます。
逆に短期思考だと、一時は良くても成長が鈍化します。「今は辛くないから大丈夫」と先送りにするのは、まさに短期思考の典型です。なぜそうなるかというと、健康が目に見えない「無形資産」だからです 。銀行口座のお金なら目に見えますし、歯医者に定期的に通う人が多いのも、歯は目に見えるからだと思っています 。内臓は開けてみない限り、数値や画像で検査しない限りは見えません 。
見えないから大丈夫だと信じ込み、蓋をしてしまう人が多い。しかし、可視化しないと分かりません。今は科学の進歩でそれができるようになりました 。可視化すること自体が改善に繋がると考えています。目先にとらわれないために、データドリブンに予防することが重要です 。
「仕組み」で自分をハックする。医師が実践する習慣化の技術
―頭では分かっていても、習慣を変えるのは難しいものです。中田さんご自身はどのように実践されていますか?
習慣化のコツは、意志の力に頼らず「仕組み」にすることです。 最も重要なのは「始める」こと。例えばランニングなら、まず1分だけ走る。1分走れば、そのまま30分走れます。最初のスタートのハードルを極限まで下げることがポイントです。
私の場合、自分にパーソナライズしたサプリメントを毎日飲んでいますが、そのサプリは「犬の餌の隣」に置いてあります。犬には毎日必ず餌をあげますよね。あげないと死んでしまうので(笑)。その「絶対にやる行動」のついでに自分のサプリも飲む。これを冷蔵庫の上の棚などに置いてしまうと、絶対に飲み忘れます。他にも、社内のブレスト会議は歩きながら行い、1日1万歩を確保したり、ジムは「エニタイム」と「パーソナル」を併用して、場所を問わずパッと行けるようにしています。 データも3ヶ月に一度は必ず取って、PDCAを回しています。生活習慣が変われば数値も変わるので、それをゲーム感覚で調整していくイメージです。
仕事以外についても、仕組みで余白を作ることは重要視していますね。例えば、毎月強制的に海外に行くスケジュールを入れ、そこではミーティングをせずに何もしない時間を作る。 論理的に思考する時間だけでなく、それを手放す時間を意図的に作ることで、クリエイティビティを高めています。
AI時代に残るのは「問いを立てる力」と「人間としての魅力」
―テクノロジーが進化する中で、今後の医師の役割はどう変わっていくと考えていますか?
「知能」、つまり正解がある問いに対して迅速に答えを出す能力に関しては、人間はもうAIには勝てません。診断や手術の技術といったスキル面でも、データが蓄積されればAIの方が精度が高くなる時代が来るでしょう。実際、知識量ではすでに多くの医師がAIに超えられています。
そうなった時に人間に残るのは「知性」、つまり「答えのない問いに向き合う力」です。AIは正しい答えは出せますが、「その人にとって何が幸せか」という問いを立てることはできません。
論理的に「お酒をやめましょう」と言うのはAIでもできます。でも、その人の人生観や楽しみを理解した上で、「じゃあ、こういうバランスでいきましょう」と対話し、行動変容を促すのは、人間にしかできない。これからは「ヒューマン・インテリジェンス(HI)」、人間力や共感力が医師にとって最も重要なスキルになると思っています。
また、AIは「責任」を取れません。最終的な診断や処方の決定に対し、人間が責任を持つという構造は変わらないでしょう。だからこそ、医師には「人間としての魅力」や「自信」、そして「対話力」が求められるようになります。
―これからチャレンジしていきたいことはありますか。
シンプルにビジョンとミッションの実現です 。最後を迎える時に、やれることを全部やって「いい人生だった」と思える、そういう後悔のないゴールを全員が達成できるようにしたい。それがビジョンです 。そして、単に体が健康なだけでなく、良い人生を送れるようにする、それがミッション「すべての人にウェルネスを」の意味です 。
未来のテクノロジーの話で言えば、数十年分の体のデータを管理しておけば、AIが「何年後に何で死ぬか」を予測できるようになるはずだと思っています。それがわかれば、相続の準備も、海外旅行の計画も、家族との過ごし方も、人生設計の解像度が劇的に上がります 。データを用いた予防医療のパイオニアとして、人生をデザインできる基盤を作っていきたいですね 。
―最後に、Honda Lab.のメンバーへメッセージをお願いします。
Honda Lab.には、アクティブに人生を楽しんでいる方々がたくさんいらっしゃると思います。そんな皆さんが、より長く、より良く人生を走り続けるための基盤として、「健康」への投資は不可欠です。
『ONE PIECE』のルフィでさえ、船医のチョッパーを仲間にしていますよね。問題が起きてから医者を探すのではなく、人生という航海に伴走してくれる「かかりつけ医」を一人持っておくこと。それが、後悔のない最高の人生を送るためのインフラになると確信しています。
もし、まだ自分の「チョッパー」に出会えていない方がいれば、ぜひ頼ってください。データと対話で、一緒に人生をデザインしていきましょう。
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今回の「Honda Lab. SPOT LIGHT」では、中田航太郎さんの医師を目指すに至った強烈な原体験から、医療業界の構造的課題への挑戦、そしてAI時代における人間的価値の再定義まで、深く語っていただきました。
「上流のダムを直す」という着眼点、そして「健康は資産である」という視点は、医療だけでなく、私たちのビジネスや生き方すべてに通じる本質的な問いかけでした。@Kotaro Nakada さん、貴重なお話をありがとうございました!
今後もHonda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきます。お楽しみに!
interview by @しゅーへー , @みぃ , @SHOTA , @Norihito
Text by @しゅーへー (大箭周平)









