Naoさんのオススメで「ファンベース | 佐藤 尚之」を読み、ECOALFというブランドがとても参考になると思うので、ぜひ皆さんに紹介しようと思います。もちろん、ファンベースを読んでいなくても大丈夫です。ちょっと長いので気になる方だけどうぞ!

ECOALF(エコアルフ)というファッションブランドをご存知でしょうか?スペイン発のファッションブランドで、世界的に急成長しています。2020年には原宿にも日本一号店が出来ました。ファッションの世界でもサステイナビリティ (持続可能性)は重要な要素になってきましたが、このブランドのユニークなところは全ての製品が100%リサイクル素材で出来ているという点です。

圧倒的にユニークな企業価値
最近ではアディダスやH&Mのように超有名ブランドまでこぞってサステイナブルを謳うようになりましたが、ECOALFは今から10年以上も前にそのアイディアの原型を創り始めました。創業者のハビエル・ゴジェネチェは、ECOALFの前にもアクセサリー&バッグのブランドを成功させ売却している起業家ですが、ビジネスの成長過程でファッション業界が生み出すゴミの量や環境に与えるネガティブな影響に心を痛めていました。というのもファッション業界は石油業界の次に環境汚染をしている産業だからです。そこで、彼は100%リサイクル素材で製品を作るファッションブランドの設立を決めたのでした。

環境破壊は至るところにありますが、特に深刻なものの一つに海洋汚染があります。海には毎年600万トンのゴミが廃棄されており、その中には漁業で使われる網も含まれ、海の底にはなんと65万トンの漁業網が沈んでいます。

あまり知られていませんが、漁師が漁をする際に魚と一緒に大量のプラスチックゴミや廃棄物などが網にかかるのですが、現在それらは陸には戻さず海に捨てられています。そこでECOALFは漁師と協力し、それらのゴミを海に捨てる変わりに地元の工場に運び加工し、服を作るためにの繊維を作っているのです。そうしたプラスチックやゴミを繊維にするために研究開発に非常に力を入れています。


リサイクルのイメージを変える
創業者のハビエルはいつも「ECOALFはテクノロジー企業であり、イノベーションを行っているんだ」と言います。つまり、リサイクル=慈善事業ではないということです。彼らは営利企業として本気でファッション業界のあり方を変えようとしています。事実、イギリスのベンチャーファンドから投資を受けており、100%営利企業です。

また、買い手からしてもリサイクルというと、誰かが使った服の使い回しみたいなイメージがありますが、ECOALFが目指しているのは、言わなければリサイクルだと誰も分からないようなファッションブランドです。

彼らは自分たちが作るファッションアイテムのデザインに非常にこだわっています。スペインのトップデザイナーの一人であるSybillaとコレクションを作ったり、CAMPERやDESIGUALといったファッションブランドともコラボレーションしてきました。それ以外にもアップル、スターバックス、バーニーズニューヨーク、クールハンティングなど、様々な企業とのコラボレーションを実現させています。もちろん、ECOALFの中にも優秀なデザイナーがいてECOALFの服は機能性・デザイン性共に優れているのです。


ファンベース:トライブ
ECOALFとユーザーとの繋がり方は、ファンベースの根幹である共感、愛着、信頼という点でとても参考になります。

1. トライブ                              
ファンを大事にする、ファンと共にブランドを創りあげるという考え方はECOALFの中核をなしています。具体的には、ECOALFは自分たちのブランドのユーザーを"トライブ(家族・仲間)"と捉えています。つまり、ECOALFにとってユーザーは単なる顧客や消費者ではなく、ファッション業界を変えるというミッションを分かち合う仲間なのです。また、顧客にとってもECOALFの製品を買う・使うことは、環境問題にライフスタイルから取り組むグループの一員になったという意味を持っています。

2. スローガン                             

その強力な一体感を生む一つの方法がECOALFの代表的なアイテムである「because there is no planet B」というスローガンの入ったTシャツです。 英語では当初の計画がうまくいかない場合の次善の策や代替案のことを、"plan B"と表現します。つまり"because there is no planet B"とは地球は一つしかない、替えが効かないということを意味しているのです。

スローガンに"because(なぜなら)"を使うところがとてもクリエイティブで、「自分はECOALFの服を着る。なぜなら地球は一つしかないから」とECOALFの服を着ることが単なる自己表現ではなく、差し迫る環境問題を考えるきっかけになっているのです。

ただ単にエコってイイよねじゃなく、なぜエコについて考える必要があるかをたった一言のメッセージで人々と共有しているのです。

                             
4. マーケティング                       
ECOALFがトライブ(仲間)を大切にする点は、同社のマーケティングにのあり方にも現れています。多くのファッションブランドでは莫大な資金を使って有名人に製品を使ってもらったり、自社の広告に出てもらったりして認知度と企業のイメージアップを図っています。

しかし、ECOALFは有名人にお金を払って服を着てもらうといったことを一切しません。その逆で、著名人の方からECOALFに直接連絡したり、自分で服を買って着ているのです。なぜこんなことが可能かというと、ECOALFの服を着るという行為自体が環境問題に本気で取り組むトライブのメンバーであるというシンボルだからです。イメージ先行のサステイナブルではなく、ブランドのあり方とミッションに共感してくれる人を大切にしているからこそ、ECOALFは多くの人々の共感を得られるのです。

有名人にお金を払う変わりに、ECOALFは小学校から大学、ビジネスカンファレンスといった様々な場所での講演活動に時間とお金を費やします。こうした講演には創業者のハビエルを含む社内のキーメンバーが必ず出向きます。そして、ECOALFがなぜ100%サステイナブルなブランドを目指すのか、これまでにどんな取り組みを行ってきたかを共有するのです。ファッションに疎くてECOALFというブランドを知らない人も、ECOALFの取り組みを直接聞くことでブランドに共感するのです。

また、ECOALFでは店舗の一部がイベントスペースになっており、自社の活動報告だけでなく、ゲストスピーカーを招いたイベントなども開催しています。ECOALFのことが大好きな人々が集まる場を作って、仲間であるという意識を強めているのです。

5. 基金の設立                             
さらに、ECOALFはユーザーだけでなくビジネスパートナーからも支持されています。それは、彼らがECOALF Foundationという基金を作り、実際に海から廃棄物を回収し自社の製品に変えているためです。スペイン、タイ、ギリシャの地元政府や行政と協力しながら、2015年からこれまでに500トンもの廃棄物を海から収集しています。この基金には外部組織もコラボレーションすることが出来て、企業や組織としてECOALFの活動に直接貢献したい人たちもECOALFの活動に加わることが出来るわけです。お金を払ってエコでサステイナブルなイメージを買うのではなく、最前線に立って廃棄物を回収しているからこそ、ビジネスパートナーからの信頼も得られるわけです。


日本でエコとかサステイナブルというと、どこか胡散臭かったり慈善事業の延長に聞こえてしまいます。営利企業のファッションブランドとして産業自体を変えようとするECOALFは、これからの企業と消費者のあり方を考えるうえでとても参考になるのではないでしょうか。