可能性にフォーカスする
イスラエルは人口が700万人程度で大きさも東西が車で1時間くらいの小さな国です。にも関わらず、NASDAQの上場企業数は数的優位の中国と自国のアメリカに次ぐ3位。スタートアップ文化が盛んで、世界各国のベンチャーキャピタリストがイスラエル企業に投資を行っています。その額は2019年の一年で83億ドル(8600億円)。人口でイスラエルの15倍以上の日本が2162億円なので驚異的な数字です。(ちなみに楽天が9億ドル(920億円)で買収したチャットアプリViberもイスラエル出身。)
イスラエルに行く前までは、ユダヤ人の秘密を暴いてやるぜ!と息巻いてました。しかし、彼らとの生活を通して学んだのは、彼らのマインドセット(心のあり方、物事の捉え方、考え方)です。
ユダヤ人はお金に対して超シビアです。一円たりとも無駄金を払おうとはしません。しかし、面白いのは投資に対しては全くの逆な点。え、そんなビジネス無理ゲーじゃない?!という世界に飛び込んでいきます。目に見えない可能性を察知したらそこに思いっきりお金・エネルギー・時間を投資するのです。
例えば、BrightSource Energyはイスラエルを代表する太陽熱発電デベロッパーです。創業者のアーノルド・ゴールドマンは今から40年も前の1979年に太陽光発電の可能性を察知し、Luz Internationalを設立。1991年に政府の政策転換で倒産するも、2006年にBrightSource Energyを新たに設立し、世界中に世界各地に太陽熱発電所の建設を始めます。これまでに8億ドル以上の資金調達に成功し、今では世界を代表する太陽熱発電企業の一つにまで成長しています。
可能性にフォーカスするというのは、ただのポジティブ思考ではないことをイスラエルで学びました。単なるポジティブシンキングでは生き残れないからです。可能性は現時点では実現していません。だからこそ、そこにお金・エネルギー・時間を投資して具現化させるのです。可能性にフォーカスするとは、生き残るための可能性に全神経を集中させながらアイディアの具現化に全力を注ぐプロセスのことなのです。
ある時、イスラエルのビジネスパートナーに「ビジネスオーナーと起業家は違う。起業家は未知の世界に進む開拓者だ。」と言われたのをよく覚えています。誰も正解を知らない状況で生き残るには、未知の世界を進むことが必要。そのためには可能性から考えなければ始まらないという、まさにユダヤ人がこれまで生き残ってきたマインドセットの真髄だと感じました。
へー失敗した経験があるんだ。いいじゃん!
イスラエルは、最先端のテクノロジーとアフリカの原始的な生活が合体したような不思議な場所です。世界的企業のR&Dセンターが沢山あるのに、道路がちゃんと舗装されてないから雨が降ると街中洪水状態だったり。地下鉄すらなく街の中心では乗合バスがメインの交通手段だったり。僕が住んでたテルアビブは交通渋滞も頻繁に発生したり、なんなら突然通れなくなってたり、移動するのが大変だった。。。
そんな生活環境もあって、Wazeというアプリが大人気でした。Wazeは道路のリアルタイム情報をユーザーが共有するアプリで、これがあれば移動がカオスなイスラエルでも快適。後にWazeはGoogleに9億6600万ドル(1000億円くらい)で買収され大成功。
買収額も凄いですが、僕が驚いたのは別の点。それは、CEOのノーム・バーディンは、WazeのCEOになる前にIntercast Networkという自分のスタートアップを僅か2年で潰していることです。Intercast Networkの前には他の事業でうまくいっているのですが、直近たった2年で会社を潰した人をなぜWazeのCEOとして招き入れたのか?
「失敗と成功の両方の経験があるからこそ、何をすべきで何をすべきでないかを理解している。」からです。
常にサバイバルしてきた彼らにとって失敗することは想定の範囲内。重要なのは失敗するような挑戦をした経験があるか、そしてそこから何を学んでいるのかという点です。つまり、失敗したことの良し悪しより、失敗した経験をどう生かせるかが彼らにとっては大切ということです。
また、成功体験しかしていない人(もしくはプライドが高くて失敗するようなチャレンジをしていない人)は自分の意見が絶対に正しいと考えがち。。サバイバルという観点からすると、そんな人を雇う程リスキーなことはありません。失敗した経験があるからこそ、自分の意見は必ずしくも正しくないということを学び、他人のアイディアにもオープンになれるというわけです。
他人の失敗からも学び、その経験自体を評価する。他者の失敗に対する考え方が違うからこそ生き残ることが出来るのだと感じたのでした。
ユダヤ人が三人いると5つの意見があるとかないとか
イスラエルで働いていた会社の出社初日、オフィスのドアを開けると聞こえてきたのはCEOと投資家の怒鳴り声。しかし、周りの人は何にも気にしていない様子。しばらくしてCEOが、「おーマサアキか。待たせたね」とケロり。
さっき怒鳴り合ってたけどどうしたの?と聞くと、
「話し合ってただけさ」と一言。
お互いの意見をぶつける熱量のあまり声がデカくなってただけでした。
ユダヤ人の人々はとにかく自分の意見・考えをハッキリと持っています。どこのフムス(雛豆をペースト状にした中東の定番料理)が一番うまいかと聞けば必ず熱い議論になるくらい、どんなことに対しても考えを持っています。
日本にいた頃は僕もかなりハッキリ意見を言う方でしたが、イスラエルの会社では「マサアキ!もっとはっきり意見を言わなきゃ駄目だ!」と発破をかけられる日々。
日本での生活の癖で、ついお茶を濁すような意見を言ってしまうこともありました。すると、元特殊部隊隊長CEOは僕に対して「良いと思っているのか悪いと思っているのか、自分の意思がないなら君がここにいる必要性はなんだ?」と厳しい一言。
この経験は自分の意思を持つことが生き残る可能性を高めるためにいかに重要かを学ぶ非常に大切な機会になりました。自分の意思がないなら、誰かの決めたルールや誰かの都合に振り回されるだけ。それは歴史的に迫害されてきたユダヤ人が身を以て体験してきたことです。
生き残るために自己主張をする。それは自分の考えを押し付けたり他人の意見に耳を貸さないのとは大きく異なります。自分の考えと意思をハッキリ示す。その上で他者の意見を聞き、どうするかを個人・組織のレベルで判断するのです。だからこそ、グループ全体が生き残る可能性を高めることが出来るんだと学んだのでした。
後編では
-誰が言っているかではなく何を言っているか
-情報こそが最大のアセット(資産)
-困ってる人にこそ手を差し伸べる人脈
などについて書いてみたいと思いますー!