第32弾は、『GO-TO WINE(ゴートゥーワイン)』代表の後藤芳輝(@Yoshiki)さんにお話をお伺いしました。空手を伝承するために渡ったニューヨークで、不思議な縁と当時無名だったニューヨークワインを扱うに至ったキッカケとは。
日本初のニューヨークワインに特化したインポーター『GO-TO WINE(ゴートゥーワイン)』代表として,輸入、販売,PR、啓蒙活動を行う。ワインをお酒としてだけでなく、食、ライフスタイル、農業、ビジネス、旅行、歴史、文化として捉え,これまでとは全く違うニューヨークの魅力を、ワインを通して伝えている。
誰もやっていないからこそ面白い。ニューヨークワインとの出逢い
―yoshikiさんといえば、ニューヨークワインですが、ニューヨークではどのようなことをされていたのでしょうか。
ニューヨークへ渡ったのは、空手を教えることが目的でした。その傍ら、大学院に行き、卒業して3年間ほどはロジスティックスの会社、その後5年ほどは商社で働きました。
―そこからどのようにして、ニューヨークワインのビジネスを始めたんですか。
ニューヨークに14年間住んで、日本に戻ってきたときに、せっかくニューヨークに住んでいたので、ニューヨークと日本を繋げるようなビジネスをしたいなと模索してるなかで、ニューヨークワインに出会いました。
―そのとき、ワイン以外にも候補はあったのでしょうか。
日本の伝統工芸品を海外に輸出することに興味があって、一時期そういうNPOに関わっていることもありました。でも、当時は円高でしたし、日本の中でも伝統工芸品が衰退しているような状況だったのもあり、それを海外に持っていくというのは、難しかったんですね。もちろん成功している人はいますが、僕は経験がなかったのもあって、やはり難しいなと。でも、伝統工芸品に興味を持つような人たちは、ライフスタイルを重視する傾向があって、もしかしたらワインと顧客層が被り、面白いかなと思って始めたのがきっかけですね。
―ワインを仕入れるためのコネクションはニューヨーク時代につくられていたのでしょうか。
もともとワインを輸入しようと思ったきっかけは、ニューヨークに住んでいるときの空手の生徒だったアメリカ人が、ワインのブローカーをやっていて、僕が日本に帰った後に、彼が独立したんですね。その時に、独立するから日本に良いワインを送るから、サイドビジネスでやらないか」という提案を受けたんですよ。そのときに「面白そうだな」と思って、「アカデミーデュ・ヴァン」に通い始めて、ソムリエの資格まで取って勉強してから本格的に動き始めました。また、酒類販売のライセンスを取るときに相談した方がいたのですが、「素人がフランスのワインなんか扱ってもなかなか売れないから、アメリカにずっと住んでいたのなら、アメリカが良いんじゃない」とも言われたんですね。
そのなかで、カリフォルニア、オレゴン、ワシントン、ニューヨークが候補に上がりました。僕としては、ニューヨークのワインはあまりおいしくないから売れないイメージがあったのですが、最終的には、誰もやってないからこそ、面白いんじゃないかなと。そこからネットで調べたのですが、当時は本当にニューヨークワインの情報がなくて。アメリカのメジャーの雑誌で取り上げられることなんてなかったので、古いワイン雑誌を見つけてきて、評価されているワイナリーに飛び込みしていました。全く実績はなかったのですが、「GO-TO WINE」の名刺を作って、「日本に輸入したいのですが」と言って周っていましたね。
―じゃあ本当にゼロから開拓されたのですね。
そうですね。僕が本格的にニューヨークにワインを仕入れに行く前は、ニューヨークワインは、ほとんど日本に流通していなかったんですね。本にも載ってないし、ソムリエ協会をはじめワイン業界の人でもニューヨークワインのことをほとんど知りませんでしたからね。そこからニューヨークの生産者たちと触れ合う中で、30代40代の比較的若い人たちが「ニューヨークの新しい歴史を作るぞ」という、勢いやパッションを感じて、なんかこれすごい面白そうだなって感じて本格的にビジネスもスタートしていきました。
世界一の大都市「ニューヨーク」の世界観を日本で表現する
―現在の活動を改めてお伺いできますか。
インポーターがメインではありますが、今まで全く日本で知られてなかったっていうニューヨークワインを発掘してから広げるところまで全部やっています。ですので、単なるインポーターというより、ニューヨークワインのプロデューサーに近いですね。
―アカデミーデュ・ヴァンでも講師をされているんですよね。
そうですね。ニューヨークワイン普及の一環として講座をさせてもらっています。
―もともとは、業務卸がメインだったと思うんですけど、今は店舗もあるんですよね。
今は業務卸やネットの他に、店舗も構えて小売とバーもやっています。
▼ネットショップ
https://gotowine-shop.jp/
▼店舗
go-towine.kyodo
東京都世田谷区経堂1-26-15(小田急線経堂駅から徒歩4分)
―店舗を持って変わられたことはありますか?
インポーターのときは、どうしてもワインの話が中心になるのですが、この場所を持ったことで、僕が思うニューヨークのカッコ良いの世界観を伝えられるようになりましたね。一昔前の日本だと、格式あるお店でタキシードを着ている人がブルゴーニュやボルドーのクラシックなワインを注いでくれて、それを楽しむというのが主流だったと思います。そして、7〜8年前くらいからナチュラルワインのブームがあって、お店は塗りっぱなしの壁のシンプルな内装で、店員もTシャツにジーンズといったラフな格好で接するスタイルが増えてきました。ニューヨークはまた違って、作り込んでカッコいいんだけど、気取らないカジュアルさがあるんですよね。
マンハッタンに14年間住んでいたので、知り尽くしたつもりでいたのですが、ワインを輸入するようになって、ニューヨークを一歩引いたところから見ると、マンハッタンだけじゃないんですよね。ハンプトンみたいな超高級リゾートもあれば、フィンガーレイクスみたいに、古き良きアメリカの名残があるところもあるし。ブルックリンみたいなヒップなところでクラフトビールじゃないけど、クラフトワインのようなスタイルもあったり。
ニューヨークのワイナリーも、いろいろなスタイルがあると感じています。どこに行っても、お洒落でかっこよくて、都会の洗練さと自然の交わり具合がすごくセンスが良いなと感じることがすごく多いんですよね。お店を持つことによって、それらを具体的にビジュライズできるようになった感じがします。お店も、昼間はワイナリーのテイスティングルームのような、明るくて解放感を感じられるようになっています。
それが夜になると、ブルックリンのワインバーみたいになるので、ニューヨークのような世界観は表現できていると思います。
今や世界レベルになったニューヨークワインの魅力
ーyoshikiさんが思う、ニューヨークワインの魅力は、どのようなところでしょうか。
今は、世界的なワインと遜色ないレベルになってきていて、味わいもかなり良くなってきています。僕が扱い始めた頃は、「ロバートパーカー」の影響力がまだ強く、果実味たっぷりのカリフォルニアのほうがまだ人気でした。でもこの10年ほどで、世界的に食がライト化してきているので、ワインもどんどんどんどんニューヨークのほうに近づいている感覚はありますね。
―和食とかに合わせたりもしやすいのでしょうか?
そうですね。それこそ大越さんも「アルコールが15%もあるとペアリングには使いづらい」と言っていたけど、今って低アルコールということが重要なんですね。なので、今はだいたい13%ぐらいまでが良いと言われています。ニューヨークワインは、白が約12%、赤が約13%ぐらいで、ペアリングにはすごく良いんですよ。あとは、ニューヨークって真新しくてカッコいいイメージがあるから、話題性もあると思うんですね。
たとえば、ソムリエさんが、「ドイツのリースリングと、フランスのリースリングと、ニューヨークのリースリング、どれにしますか?」と聞くと、結構なお客さんが「えっ、ニューヨークでリースリング作ってるの?」って反応になることが多いみたいです。隠し球とか変化球としてすごい使いやすいというふうには評判になっていますね。
―ワイン会でも絶対喜ばれます。
ワインを扱い始めた頃は「ニューヨークのワインを扱っています」と言うと、ワイン業界の人ほど「おいしくないワインだよね」という反応で、むしろワインのことを全く知らない人のほうが、「えっ、ニューヨークのワインってかっこよくない?なんかお洒落だよね」という反応だったんですね。だからそこを逆手にとってブランディングはしていきましたね。なので、扱うワインのラベルはすごく見ます。
―可愛いものが多いですもんね。初めて飲む方にお薦めはありますか。
初めて飲むのだったら、僕はウォルファーのロゼが一番だと思います。食事にも合わせやすいですよ。ラベルのデザインも可愛いし、話のネタになりますね。余談ですが、「これ、ハンプトンで作ってるんだ」って言うと、特に女性にはウケたりしますね。「話のネタになる」ところも僕は大事だと思っています。
対立の時代だからこそ『調和』を重んじる
ー少しワインから話題は逸れるのですが、仕事をするうえで大切にしている価値観はありますか?
仕事ということだけではないですが、「調和」を1番大切にしています。調和の反対は「対立」ですよね。例えば僕が過去に習っていた「極真空手」は、キックボクシングみたいに実際に拳をぶつけ合って勝ち負けを決める、まさに「対立」」や「衝突」なんですね。でも今習っている武道の空手は、いかに相手と調和するかということを大切にしているんです。
仕事で言うと、生産者さんや一緒に働いている人、お客さんとも調和です。生産者さんに対しても「量を売るから価格を安くしてくれ」みたいな、そういったビジネスライクな付き合いではなく、一緒に頑張っていく仲間として調和は大切にしています。ニューヨークワイン自体も、僕は「都会と自然の調和」のテーマを持っていると思います。
―素敵ですね。今日のお話を聞いて、全てにおいて調和されているんだと感じました。そんなyohiskiさんがこれから実現されたいことはありますか?
1つ目は「ニューヨークワイン」を広げていくことですね。まだまだニューヨークワインは脇役的な存在なので、ニューヨークワインが主役になれるような形にしたいですね。
2つ目は「日本にニューヨークのライフスタイル」を伝えたいですね。ニューヨークワイン単体じゃなくて、ワインを取り巻く環境とか、そのライフスタイルを伝えられたら良いなと思っています。日本から見たら、ニューヨークは大都会のイメージしかないけど、実はニューヨークには自然もたくさんあります。大都会ニューヨークが自然を大切にする方向に向かっていることはとても大切だし、今後の日本にとっても大切なヒントになると思っています。
3つ目は「日本文化を海外に伝えたい」ですね。特にラボの中でも飲食に関わっている人が多いので、何か面白いことはやりたいですね。ニューヨークは世界への発信力のある場所だし、ワインの商売をしているからこそ、日本人が全くいない現地コミュニティとのネットワークあるのでうまく活用したいです。
ーラボに入って、変化したことはありますか。
具体的には思いつかないんですが、ラボに入ってすごく感じたのは、Naoさんをはじめ、仕事と遊びを分けて考える必要はないんだなとは思いましたね。
ラボ入る前は、仕事は仕事、遊びは遊びみたいな考えでした。でもラボって時間も場所もとらわれない人たちが多いじゃないですか。それこそ、寿司だって、2ヶ月間、月〜金まで週5で通うなんて普通の人から見たら「そんなのできるわけない」って感じちゃうと思うんですよ。でも、Naoさんやラボメンバーを見ていると、そこに対するブロックや分け隔てもないし、何事も真剣にやっているなって思うんですよね。それはワイン業界だけにいたら、絶対に得られなかった価値観だと思うので、それは大きいかもしれませんね。
―なるほど。最後にyoshikiさんからラボメンバーへのメッセージをお願いします。
やはりホンダラボがすごく良いなと思うのは、仕事やバックグラウンドや住むところも違うし、年齢も地位も違うけども、Naoさんを通して共通の価値観とか趣味を持つ人たちがフラットに繋がれる関係というところですね。そこを大切にしたいし、もっといろんなことを皆さんとしていきたいなと思います。
あ、あとは、タコスのヒロは、場所と時期は被ってないけど僕と同じ会社で同じ部署だったんですよね。もし僕がそのままアメリカにいたら絶対に一緒に仕事をしていたんです。そうした縁もあるので、ニューヨークワインとタコスのコラボはしたいですね。これ、書いておいてください。(笑)
ー承知しました!yohsikiさんありがとうございました!
今回の「Honda Lab. SPOT LIGHT」では、後藤芳輝さんがニューヨークワインを扱うことになったキッカケからこれまでの軌跡、そして展望まで様々なお話を伺うことができました。@Yoshikiさん、貴重なお話をありがとうございました!
今後もHonda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきます。お楽しみに!
interview @みぃ
Text by @Yasuto