【Honda Lab】メンバーの素顔と活動にフォーカスを当てるインタビュー企画「Honda Lab.SPOTLIGHT」。

第二弾は、「森のスパリゾート・北海道ホテル」林克彦(@-- )さんのインタビューをお届けします。





森のスパリゾート・北海道ホテル    林克彦さん
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「森のスパリゾート北海道ホテル」取締役社長。1975年、北海道帯広市生まれ。大学卒業後にカナダ留学ののち北海道に戻り、様々な職種を経験。2009年には「北海道ガーデン街道」を立ち上げる。2017年に株式会社北海道ホテル取締役社長に就任し、十勝ナチュラルチーズ協議会会長、サウナ学会理事も務める。

北海道を代表するホテルにしよう

ーラボメンバーの中には、北海道ホテルや林さんのことを詳しくご存知ない方もいらっしゃると思いますので、これまでの経歴やホテルを経営することになった経緯を聞かせてください。

十勝毎日新聞ホールディングス(通称:カチマイホールディングス)を経営していまして、兄が「十勝毎日新聞社」の代表、私が「森のリゾート北海道ホテル」の社長を務めています。

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曽祖父が大分から出てきて、地域を発展させるために新聞社を始めて、兄で4代目になります。創業は1899年なのですが、「北海道ホテル」自体は1994年に買収をしたので、われわれが経営している期間としては30年弱です。

28年前、当時は「北海道ホテル」という名称のホテルがなかったので、「北海道を代表するホテルにしよう」ということで、「北海道ホテル」という名称になりました。同時に、もともとあったホテルを取り囲むようにL字型で新しいホテルを建てました。北海道ならではのホテルということで、十勝産のレンガを60万個以上使ってアイヌ模様を活かしたデザインになっています。
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私が北海道ホテルのバトンを受け取ったのは2017年。赤字が3年ほど続いている時でした。ホテルのデザインをご覧いただければわかると思いますが、重厚感のあるデザインだけに当初のお客様は50代以上の方が中心で、40代以下の方は結婚式でご来館いただく程度でした。当時の収益源は「宴会」と「結婚式」だったのですが、地方の結婚式は減少傾向にありました。そのため、ホテルの利益構造を根本から見直さないと立ち行かない局面でした。

赤字が続いていてなんとかしなければいけないと思う一方で、現場のスタッフはこれまでトップダウン式で教えられていたこともあり、何をどうして良いかわからないため、もどかしい気持ちも感じていました。「人材育成をきちんとしていかないと北海道ホテルの成長はない」と思い、まずは社内体制を見直すことにしました。

スタッフの喧嘩から生まれたホワイトボードマネジメント

実はグループ内の16年間赤字が続いていた飲食店で、総料理長と社員が喧嘩したことがあったんです。収拾がつかなくなった二人は、私のところへきて「社長、どちらかをやめさせてください」というわけです。私としてはどちらか一方を辞めさせるなんてことはできません。また、そもそも「なぜ大人同士が喧嘩をするんだろう?」と思いました。思考を巡らせているうちに「マネジメントを教えていない」ということに気づいたんです。当時を振り返ると、「来店したお客様に対してどう振る舞うか」は教えていましが、「どうやったらお客さんが足を運んでくれるのか」「どうやったらチームがうまく機能するのか」は教えていなかったんですよね。

そこで生きたのが32歳から34歳の頃の学びでした。この2年間はMBAの先生に弟子入りして、マクロ経済学、マネジメント、イノベーション、読書学を徹底的に学びました。睡眠時間は1日4〜5時間で、ひたすら読書、論文作成、ディベートを繰り返す日々を送っていました。それらの学びをこれまでは自分のためだけに使っていましたが、他のスタッフにも還元しようと、体系的にまとめたものが「ホワイトボードマネジメント」です。

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あらゆる問題や懸念事項とそれに対する解決策をホワイトボードに書いて、一人ではなく、チームで相談して解決するような体制にしました。今はすべての部署ごとだけでなく、「役員」「料理人」「天ぷら」など、ありとあらゆるグループを作ってメッセンジャーやLINEなどで情報を共有することで、活発に意見交換がなされるようになっています。自分に責任が出たり、自分から発言をしたりすることで、どんどん人が変わっていって、それぞれが自分で考えて動くようになり、16年間赤字を続けていた事業が突如黒字になったり、利益率が改善するなどの成果が見られるようになりました。

1番嫌いなサウナが飛躍のキッカケに

ーまずは人材育成の部分から改革をはじめられたわけですが、ホテルをはじめとする施設はどのように変えていったのでしょうか?
利益構造を変えていくには「20代、30代の方にウケるもの」を考える必要がありました。その答えはなかなか見つからなかったのですが、ホテルを経営する傍ら行っていたフライフィッシングのガイドの時に訪れました。

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私がガイドをつとめたメンバーの中にはDMMの社長さんがいらっしゃったりしたのですが、その中に「ととのえ親方」がいたんです。名刺交換した際に肩書きが「プロサウナー」となっていて、正直「なんだこの人」と思いました。当時はサウナと水風呂が1番嫌いでしたから、名刺交換の際に「おそらくもう2度と会わないと思います」と、ととのえ親方に伝えたことを今も覚えています。(笑)

ととのえ親方と出会った1ヶ月後、今度は台湾で6番目のお金持ちの方がプライベートジェットで帯広空港に来るということで、通訳を頼まれたんです。通訳をしながら案内する中で、日本に来た目的を聞くと、「湖沿いに別荘を建てて、サウナをして湖に飛び込みたい」と言っていたんですね。はじめは気に留めることもなかったのですが、ふとした瞬間に、どうも先月から1番嫌いなサウナネタが続くなと感じました。よく考えたらうちのホテルにもサウナ付きの客室があったなと思って、嫌々サウナに入ってみることにしたんです。
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どうせならと思ってその様子をインスタにアップすると、予想以上の反響をもらったんですね。そして、2度と会わないと思っていた、ととのえ親方から「すごい部屋を持っていますね。行かせてください。」という連絡もいただいたんです。

初の「ととのい」でサウナの虜に

そして次の日には、ととのえ親方が奥様と一緒に北海道ホテルにいらっしゃいました。なぜか奥様も含めて3人で食事をし、食後に私が立ち去ろうとすると「十勝のサウナを変えるためには、林さんを変えなきゃダメだ」と言われて、情熱に圧倒されるがまま、半ば無理やりサウナに連れて行かれたんです。

当時の設備はまだドライサウナしかなくて、喉は痛いし、汗も出ないし、何のために入っているのかもわからなかったのですが、言われるがままに水風呂にも頑張って入ってみたんです。すると、段々と心地良くなったんですね。いわゆる「ととのい」を初めて体感したんです。当時、私は夜に6回起きるほどの不眠症だったのですが、「ととのい」を体験した日はぐっすりと眠ることができ、「サウナってすごいな」と思うようになりました。

それ以降、親方とは仲良くさせていただいたのですが、ある時、「サウナ聖地であるフィンランドのルカに行きませんか?」と誘われまして。サ道の著者であるタナカカツキさんとフィンランドを巡るツアーでした。プロサウナーのつどいのようなツアーだったのですが、このサウナツアーがとても充実していました。

そしてその時に感じたのは、ルカの街は食事も景観も北海道や十勝に似ているということ。フィンランド人のスタッフに聞くと、11月から4月が忙しいと言うわけです。それを聞いた時に、うちのホテルでもすぐに導入すれば早い者勝ちでサウナ聖地になるかもしれないと思いました。思い立ったら即行動です。フィンランドから戻ってきて2ヶ月後には、すべてのサウナにロウリュを入れてフィンランド式にしました。

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すると見事に常連さんがいなくなり、まったく違った客層のお客様がきてくださるようになったんです。客層が変わるだけでなく、売上も2倍になりました。そして今は当時の5倍ほどになっています。今もサウナはどんどん進化していまして、鹿の角飾ったり、熊の木彫りの顔の木彫りを飾ったりして、「ハンティングサウナ」という名前で今やっています。
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他の特徴としては、モール温泉をロウリュできる「モーリュ」があります。モール温泉は、天然の化粧水とも呼ばれていて、それをロウリュすると、お肌がウルウルするとして、好評をいただいています

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また、壁に施した白樺の切株にモール温泉をかける「ウォーリュ」もあります。心地よい白樺の香りが広がりリラックス効果もアップします。

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この経験をもとに、他のホテルさんや観光施設にもロウリュの存在を教えました。すると案の定、売上が上がるんです。こうして地域全体を盛り上げ、エリアブランディングをしていった結果、十勝は人口割合で1番ロウリュができる地域になりました。

先日も東京から20名くらい、若い方がバスを借り切って聖地巡りをしていましたね。今後、知床の北こぶしリゾートも含めて聖地ツアーなどもできたら面白と思っています。

「貴族の遊び」「ミシュラン獲得」「動物園ホテル」を仕掛けていきたい

ーこれまで様々な変革をされてきたと思いますが、今後さらに取り組んでいきたいことはどのようなことでしょうか?


自然と対峙する遊びをもっと広めていきたいですね。サウナを導入してみて分かったのは、ドーパミンとアドレナリンを論理的に理解すると、中毒性の高いサービスが作れるということです。これは貴族の遊びも同じだなと思ったんです。例えば、フライフィッシングも難しいんですよ。初めはまったく釣れなくて悔しい思いをするのですが、上達すればするほど大きなニジマスなどを釣れるようになるわけです。そうして困難と達成感を繰り返すことがアドレナリンとドーパミンを交互に出すことになり、ドンドンハマっていくのだなと。十勝はフライフィッシングの聖地とも呼ばれていて、比較的簡単に大きなトラウトが釣れたりするんです。今後、そうした遊びがもっと広めていきたいですね。

また、「食」には力を入れていこうと思っています。というのも、「これが名物です」と言えるものがなく、十勝にはミシュランを獲得したお店がないんです。「天ぷら」「鉄板焼き」「寿司」3つの分野でミシュランを獲得できるように戦略的に取り組んでいく予定でして、今は特に「天ぷら」に力を入れています。

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25歳の若い職人を全国の有名店に連れていって、チームで研究と実践を繰り返しています。食材も調味料以外はすべて北海道産のものをしようしています。先日、北海道でも有名なシェフの方や、世界的に有名なフーディーである浜田岳文さんに来てもらった際に「これならミシュラン取れますよ」という言葉をもらえる段階まできています。今後も自分で調味料や食材を探し求めて、職人と漁師さんをつなげるような活動はしていきたいと思っています。まずは「天ぷら」をキッカケに「寿司」「鉄板焼き」も戦略的に進めていきたいと思っています。

あとは再来年、サウナに特化したホテルを作ろうと持っています。予算もかけて全室サウナ付き客室、大浴場も5つ、水風呂も4つ作る予定です。

さらに、5〜10年以内に「動物園、サウナ、グランピングを融合させたホテルを作りたい」と思っています。日本のホテルは肉薄化されてしまっていて、外資的な総合ホテルのようなものか、たくさん部屋を作って運営するビジネスホテルタイプのホテルがほとんどだと感じています。その中において、もっと違うことができるんじゃないかと考えているんですね。そこにチャレンジしたいと思っていまして、その意味で動物園は面白いんじゃないかと考えています。日本の動物園は地方自治体が運営しているところが多いのですが、実はほとんどが赤字なんです。帯広にも日本最弱の動物園があって、なんとかしたいなと。だからホテルと動物園を運営するプロになりたいと思っています。動物園って日本では「子供が行くところ」のようなイメージがありますが、海外では立派な観光拠点なんですよね。だから、動物にとってもメリットがあって、地元の人や、観光で来るお客さんとっても楽しめるものを作りたいと思っています。まずは帯広からはじめて、日本中でチェーン展開ししていきたいなと思っています。


今後も、【SPOT LIGHT】は定期的に更新していく予定です。Honda Lab.メンバーへのインタビューを実施していきますので、どうぞお楽しみに。

Text by @Yasuto
interview @チバタク  @まいまい. @Yasuto
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